ウクライナ・ロシア戦争の戦場を、将来のロシアからの分離独立闘争の戦力準備に使うという考えはかなり共通して意識されているように感じた。ある意味では、この戦争を絶好の好機と捉えているのだ。ウクライナの戦争に加わり、ウクライナがロシアに勝利することに少しでも寄与することが、自分たちの独立のチャンスを引き寄せると考えている。戦争の帰趨がどうなるかはまだ全くわからない。だがこの戦争こそ、プーチン体制を揺るがす好機以外の何物でもないという考えは、多くの人から聞かれた。
チェチェン・イチケリア共和国亡命政府の軍も、自由ロシア軍団も、ウクライナに拠点を構え、実戦に加わり、戦力を増強していっている。ロシアからの分離独立を訴える他の民族地域からも大小の規模は様々であろうが、同じように「軍」を組織するチャンスとして加わる人々が集まっていっているのだ。
「ロシアの崩壊が早ければ早いほど、平和が近づく」とウグリモフはフォーラムでも述べた。話をしていて、ウグリモフはかなり正直な男だと私には思えた。彼ははっきりと言った。ロシアが崩壊し分裂した時には、かなりタフな状況になると。しかし、私たち今の世代がその苦難を味わうことになったとしても、次の世代においては、ロシアが分裂した方が世界はより良くなるというのがウグリモフの信念だ。ロシア分裂において想定される諸問題は認めている。それでも自分のことではなく、次の世代、次の次の世代の真の平和を実現したいと考えている。賛否はあるだろうが、そういう考えは十分に認められ得るものだと私は思う。
日本政府がビザを出さなかった事例
シェリプ外相(右)
ところで、本稿の冒頭で少し触れたが、実はフォーラム参加予定者に対して日本政府がビザを出さなかった事例があった。
チェチェン・イチケリア共和国亡命政府の「首相」であるアフメド・ザカエフ氏に対してもそうだ。ザカエフはロシア政府から国際指名手配されており、現在はイギリスに政治亡命している状況だ。また、2022年10月18日、ウクライナ最高議会(国会)はチェチェン・イチケリア共和国を「ロシアの一時占領下にある」として独立を承認した。そのザカエフは産経新聞に掲載されたインタビュー(ネット版7月11日、紙面7月15日)において、日本で行われるフォーラムへの参加を明言している。しかし、実際には来日出来なかった。日本政府からのビザが発給されなかったからだ。
この点について、来日してフォーラムに参加した同亡命政府の「外相」であるイナル・シェリプ氏にどう思うかを率直に聞いた。シェリプの答えはシンプルだった。
「ウクライナでの戦争によって世界は変わった。それまでの世界とは違う世界になったのだ。そのことがわからずに、前の世界に住んだままの人もいるということなのだ」
日本政府、外務省への直接的批判は全く口にしなかった。この件について日本政府への批判、非難は、他のフォーラム関係者からも全く聞かれなかった。このことも証言しておきたい。