虚しき岸田政権のコピペ外交|山口敬之【WEB連載第21回】

虚しき岸田政権のコピペ外交|山口敬之【WEB連載第21回】

11月13日、東アジアサミットで中国を名指しで批判した岸田首相。「岸田首相は覚醒した」「初めて毅然とした姿勢を示した」と評価する声も出たが、はたして本当にそうだろうか。岸田首相の発言を検証すると、バイデン大統領の発言と「ウリ二つ」であることがわかった――。(サムネイルは首相官邸HPより)


事前調整にもいろいろな種類がある。今回の「調整」は、アメリカ側に言われるがまま、アメリカの書いた文章を横のものを縦にした。だから発言が「似ていた」のではなく、岸田首相はアメリカの書いたものをそのまま読まされた。

そして日米首脳会談の後に予定されていた日中首脳会談で何を言うかについても、バイデン大統領から指導されたというのだ。

戦後の日本は、様々な形でアメリカに支配され、アメリカの庇護の元で、アメリカに「Noと言えない国」として、まるで属国のような地位に甘んじてきた。「アメリカの51番目の州」と揶揄されるのもこのためだ。

そして時の総理の中には、独立国の体をなしていない現状をどう改善するか努力した者もいた。しかし「アメリカの植民地」という現状を追認し、首相として安楽なほうを選ぶ首相も少なくなかった。

ロナルド・レーガン大統領と「ロン・ヤス」という対等の関係を築いたかのように演出しておきながら、日本列島を「不沈空母」と呼んで日米同盟の垂直的力学を追認した中曽根康弘首相。

捏造された理由でイラク戦争に突っ込んでいったブッシュ大統領の判断を、ロクな検証もなく世界で最初に支持した小泉純一郎首相。

こうしたアメリカへの恭順の意を高らかに表明したこの2人の首相は、5年に及ぶ在任期間を満喫し、平穏に勇退していった。しかしアメリカへの服従を選んだ中曽根・小泉ですら、国際会議の場でアメリカに与えられた文章をそのまま読み続けるような屈辱的行為は引き受けなかった。

「独立国となる努力をしない」どころか、「属国として日本の地位をさらに低下させ、アメリカ隷従を固定化していく」というのが岸田外交の本質である。

防衛力増強にも見えるアメリカの影

8日間に及ぶ外遊から帰国して早々に、岸田首相が取り組まねばならなかったのはアメリカから与えられた「宿題」である。

5月の日米首脳会談で「相当な増額」を約束させられ、今回のプノンペンでの首脳会談でもバイデン大統領から防衛力増強を念押しされた。

これに対して岸田首相は「年末までに新たな国家安全保障戦略をとりまとめ、日本の防衛力を抜本的に強化し、防衛費の相当な増額を確保する」と伝えた。

会談後記者団に対して岸田首相は「バイデン大統領から強い支持をいただいた」と語った。

防衛力をなぜ増強しなければならないのか、そしてどう増強していくのか。その政府の基本方針を示すのが、政府が策定する防衛3文書の一つ「国家安全保障戦略」だ。

11月21日に新聞各紙は、年末までに改訂される国家安全保障戦略について「中国の覇権主義的な動きについて、日本やアジア地域の安全保障への『挑戦』と位置づける方向で調整に入った」と一斉に報じた。  

これまでの国家安全保障戦略では、中国について「我が国を含む国際社会の懸念事項」と記していたが、中国の脅威についてより踏み込んだ表現にするというのだ。

そこには、「中国に対して弱腰」という保守層の批判をかわす狙いが透けて見えた。

ところが、この表現を見て私は「デジャヴ」(既視感)に襲われた。バイデン政権が10月にまとめた「国家安全保障戦略」に全く同じ表現があったのだ。

バイデン政権は10月、中国について「ロシアと連携して世界秩序を再構築しようと『挑戦』している」と定義した上で、「経済・外交・軍事・技術力を強めている唯一の競争相手」と記したのである。

国家安全保障戦略をはじめとする防衛3文書は、日本が国家・国民をどう守って行くかという意思表明でもある。その独立国としての矜持の象徴であるはずの文章に、アメリカに言われた通りの内容を、言われた通りの言葉で書き込む。

逆に言えば、そういう時でしか、中国に対して毅然とした発言ができないのが岸田政権である。そしてアメリカに言わされただけの「番犬の遠吠え」にもかかわらず、保守派に対してのアピール材料にしようと世論誘導を試みる岸田官邸。

こうした構造は少しの事実確認で容易に明らかになるにもかかわらず、「岸田首相は覚醒した」などと吹聴する岸田擁護派も、事実を捻じ曲げて国民を愚弄していると言わざるを得ない。

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