バイデンに踏み絵を踏まされた
アメリカがいない局面では、どのような発言をしたのか。
11月13日朝に行われたベトナムとの首脳会談で岸田首相は、「東シナ海・南シナ海情勢、北朝鮮情勢についても引き続き連携していきたい」と述べている。
このほかタイやドイツの首脳との会談でも「東シナ海・南シナ海、北朝鮮、ミャンマーを含む地域情勢についても意見交換を行いました」。
東シナ海の問題とは、すなわち我が国固有の領土である尖閣海域への中国の公船の執拗な侵入であり、8月4日の中国による弾道ミサイル11発の撃ち込みである。
ASEAN各国など、中国と領土問題など懸案を抱える相手国の首脳は繰り返し中国を名指ししている。もし岸田首相が覚醒し、「中国に対しても毅然とした対応をする」と決意したのであれば、尖閣や弾道ミサイルに関してASEAN諸国と連携する絶好の機会だったのだ。
ところが岸田首相はこうしたチャンスを棒に振り、中国という単語すら口にすることができず、「東シナ海の問題」などとお茶を濁し続けた。北朝鮮やロシア、ミャンマーなどについては、きちんと国名を口にしているにもかかわらず……。
岸田首相は覚醒していないのではない。あまりに中国に弱腰であるためバイデンに踏み絵を踏まされただけなのだ。
こうした事実確認と関係者取材の末に、私はメルマガや各種動画で「東アジアサミットでの岸田首相の中国名指し発言はアメリカに言わされたもの」と指摘した。
すると岸田擁護派からは「あれは岸田首相が自分の言葉で語った」「中国に毅然とした態度で接するとの決意の表れ」との異論が出た。
官邸が認めた「事前調整」と岸田外交の本質
しかし、この論争は翌日の大手メディアの報道で瞬時に決着した。11月17日夜に行われた日中首脳会談に関連して、政府筋が東アジアサミットでの中国名指し批判発言について「アメリカ側と事前調整した」と、あっさり認めたのだ。この件の報道が一番詳しかったのは、朝日新聞だ。
「この発言について官邸幹部は、どこまで踏み込むか『米国など各国と事前に話し合っていた』と明かした」
「直後の日米首脳会談で、首相はバイデン大統領と、習氏との会談に互いにどう臨むかを確認した」
11月18日 朝日新聞朝刊