『人民日報』が李克強演説を第2面で大々的に掲載
第4に、党内政治(その1)。
『万維読者網』に掲載された「習近平は本当に権力を李克強に禅譲したのか?」(2022年5月15日付)という記事(https://m.creaders.net/news/page/1139932)を一瞥しておこう。
中央常務委員会は、習近平主席の「反腐敗」や「党の厳格な統治」という初期段階での実績を認めた。そして、習近平問題では「早期権力委譲」、「次期党大会での辞任」、「安定的政権移行」、「責任追及なし」という16字方針を決定している。
習主席は第20回党大会まで総書記と国家主席の儀礼的業務を遂行し、退任後も江沢民や胡錦濤など引退した国家指導者と同じ待遇を受け、習主席の引退については紛争を拡大したり、決着をつけたりせず、党と国家の安定とイメージの維持に重点を置くという。
他方、『万維読報』に「後継のシグナルか? 党メディア、異例にも李克強にご機嫌取り」(2022年5月14日付)という内容が掲載された(https://video.creaders.net/2022/05/14/2483399.html)。
実は、5月14日、『人民日報』が、4月25日、李克強首相の「国務院第5回清廉工作会議」での演説内容を掲載したのである(http://paper.people.com.cn/rmrb/html/202205/14/nw.D110000renmrb_20220514_1-02.htm )。
李演説は同紙第2面の大部分を割いている。極めて異例のことである。
評論家の江森哲は、党メディアが20日前の李演説全文を掲載したのは、李首相に特別な待遇を与えたことを示すと喝破した。
「これは習近平政権誕生以来、極めて珍しい。この党機関紙のシグナルは、李首相の権力が増し、李の政治的地位と重要性が浮き彫りになったのではないか」と分析している。
江森哲によると、中国官界には「人がいなくなると、お茶は冷めてしまう」と俚諺(りげん)があって、定年を控えた官僚におべっかを使う人はいないという。
党幹部や党メディアは皆、政治に敏感なので、おそらく上から何らかのメッセージを受け、事前に政治的シグナルを発したのだろう。
そこで、『人民日報』は率先して李克強首相の“ご機嫌取り”に走ったのかもしれない。李が2023年3月の任期切れ後に首相を辞めても引退しないことを示唆したか、それとも、新リーダー誕生の「前奏曲」を奏でたのだろうか。
消された習近平特集
第5に、地方の動向。
『澳州新聞網』による「中国共産党の習近平不満の高まりか?李克強の復活か?反習派の逆転を懸念する分析」(2022年5月13日付)という記事(https://www.huaglad.com/lovecn/20220513/474967.html)に注目したい。
4月17日、広西チワン族自治区党委員会は「主席永遠の推戴」、「主席追従」という文革的スローガンを掲げ、習近平に忠誠を誓う初の地方政府になった。さらに、同党委員会は、習主席を称賛する『偉大な復興の先導者に従う』という特集フィルムを発表した(http://gx.news.cn/newscenter/2022-04/17/c_1128567423.htm)。
その1週間後、同自治区は「習思想」手帳の広報に乗り出し、写真をHPに掲載している。
ところが、5月11日、同自治区の省都・南寧市が突然、「習思想」手帳の回収・廃棄を命じたというニュースが流れた。また、ネットユーザーから、同政府の「習思想万人向け」サイトの写真やレポートが削除されたと指摘されている(ちなみに、同政府のHPでは『偉大な復興の先導者に従う』という宣伝フィルムが検索できなくなった)。
さらに、『万維読報』の「珍しい!李克強の演説、最近、壁のスローガンになる」(2022年5月18日付)という記事も紹介しよう(https://video.creaders.net/2022/05/18/2484429.html)。
5月17日、ネットユーザー「斉天大勝」は、「貴州省遵義市のメッセージは明らかだ。(李克強首相の)言葉が付け加えられた」と伝えている。
李首相が過去行った言辞とは「人民の願いに沿った方向で改革を行う」、「行革をさらに推進し、ビジネス環境の最適化に力を入れる」の2つである。
最近、それが遵義市政府要覧に掲載され、大きな議論を呼んでいるという。確かに、李首相の言辞が掲載されるのは奇妙な現象である。仮に、習政権が盤石ならば、果たして、このような事件が起きるだろうか。