習近平退陣の「噂」
今年(2022年)5月上旬、中文のポータルサイト『万維読者網』(2022年5月7日付)に「公式報道が興味をそそる! 習近平主席は本当に退陣するのか?」という注目すべき記事が掲載された(https://news.creaders.net/comment/2022/05/07/2480831.html)。
目下、世界では、習近平が退陣するのではないかというニュースが飛び交っている。一部のSNSでは、習近平主席がすでに半ば退位し、李克強首相が代行しているという書き込みで溢れている。
「江沢民が軍を動かし、胡錦濤・曾慶紅(中央政治局常務委員)が党を動かし、王岐山(国家副主席)・王滬寧(中央政治局常務委員)の2人がそれを実行に移した。だが、共産党は、習主席を否定もせず、責任を追及することもしない。その代り習主席は、時期が来たら引退すると約束した。また、李克強首相に譲位した事を今年秋に開催される第20回党大会で公表する。他方、習主席を個人崇拝するすべての者は下野し、党は対内外政策を微調整して、徐々に方向を変える。習主席の部下達は引退し、「反習派」に抵抗した多くの者は底辺まで落ちる。習主席はすでに権力を持たず、体面だけを残している」
このような情報がSNS上では乱れ飛んでいる。
本稿では、この「宮廷クーデター」(「反習派」による習主席の退位)の“噂”が本当か否かを検証してみたい。
戦狼外交をやめ米国にすり寄る?
第1に、外交面。
実は、最近、中国共産党は、突如、「戦狼外交」(“対外強硬政策”)をやめ、米国に好意的な態度を取るようになった(『万維読者報』「新展開:習近平の党内地位は不安定、中国共産党は最近宣伝のトーンを変える」2022年5月9日付https://video.creaders.net/2022/05/09/2481673.html)。
それが、明らかになったのは、趙立堅・中国外交部報道官と秦剛・駐米中国大使の発言がきっかけだったとされる。
4月29日、趙立堅・報道官は定例会見で、米国人の80%以上が中国に対し否定的な見解を持っている件について質問を受けた。いわば歴史上、米国民から最悪の評価を受けたわけだが、これに対して趙報道官は、こう答えている。
「両国人民は友好的な感情を持っており、友好は両国関係発展の源泉であり、重要な基礎だ」
また同日、秦剛・駐米中国大使は、中西部アイオワ州の新聞に「後背地への旅、感動の旅」と題した論説を発表した。中西部のイリノイ州、アイオワ州、ミネソタ州への旅を終えたばかり秦剛・駐米大使は、「得るものが多く、感動的な思い出をワシントンに持ち帰った」と語っている。
さらに、5月3日、中国共産党系の日刊紙『参考消息』は「ゼレンスキーはいかにして塹壕から国を治めたか」と題し、ウクライナのゼレンスキー大統領について珍しく肯定的な報道を行っている。それまで同党はSNS上のウクライナ関連情報の大半を削除していた。
これだけではない。共産党系メディアは「ロシアのウクライナ侵攻」に初めて言及(ただし、「侵攻」という言葉は引用符でくくってある)。習政権はこれまでロシアへの(物質的・精神的)支援を掲げてきたにもかかわらず、急に、米欧寄りにスタンスを変えていることが窺える。