政府全体で記述の根拠となる文書はあるのか
先週の参院決算委員会で、南京戦についての日本政府の見解の根拠について質問したところ、国会史上初の答弁が出た。
政府が外務省ホームページなどに記載してきた、「日本政府としては、日本軍の南京入城後、非戦闘員の殺害があったことは否定できないと考えている」との見解について、根拠となる文書が外務省内に存在するのかを問うたところ、「外務省が作成したものは確認できない」との答弁が林芳正外務大臣より出た。
南京戦における政府見解の問題は、近現代史研究家の阿羅健一さんが昨年3月、外務省に根拠となった資料の公開を求めたところ、今年1月に「該当文書を確認できなかったため、不開示(不存在)とした」との回答を得たことで顕在化した。
阿羅さんより、「根拠のないことが外務省ホームページに記載されており、修正できないのか」との相談を受けたことにより、私も外務省と事実関係についてやり取りを始めた。そうしたところ、外務省より、根拠となる文書が外務省内には存在しないことが私にも示され、今回の国会質疑で公式に確認したものである。
私は、この審議において、外務省内に文書が存在するか否かの答弁を得たうえで、さらに政府全体で記述の根拠となる文書は存在するのかを質問しようと、まず「外務省内に根拠となる文書は存在するのか」と質問したが、「存在しない」という答弁だけでなく、なぜか林外務大臣は、次の質問で予定していた「政府全体で記述の根拠となる文書はあるのか」の問いについての答えも一括で答弁した。
その答弁は、「いま御指摘のありました外務省のホームページの記載でございますが、平成19年4月24日に閣議決定された質問主意書への政府答弁、これを記載したものでございまして、同答弁で示されました認識は関係者の証言や事件に関する種々の資料から総合的に判断したものでございます。
この資料でございますが、外務省が作成したものは確認できておりませんが、政府機関で作成されたものとしては、1975年に出版されました当時の防衛庁防衛研修所戦史室による『戦史叢書 支那事変陸軍作戦』第一巻において該当する記述があると承知をしております」というものである。
慰安婦問題における河野談話と酷似
しかし、この答弁にあった『戦史叢書 支那事変陸軍作戦』は、戦後30年が経過した昭和50年にまとめられたものであり、私はこの本において参考文献とされている文書や関連文書を国立国会図書館から取り寄せすべて読んだが、一般住民を日本軍が意図的に殺害したとの明確な記述はこれらの資料からは得られなかった。
また、外務大臣答弁における「該当する記述」とは、「無辜の住民が殺傷され」との記述とみられるが、これは日本軍が意図的に住民を殺害したという文脈で記されているのではなく、「非戦闘員や住民が巻き添えをくらって死亡した」との前提で記されているものである。さらに、この『戦史叢書 支那事変陸軍作戦』では、「南京付近の死体は戦闘行動の結果によるものが大部分であり、計画的組織的な虐殺とはいいがたい」と明記されている。
これらから言えることは、政府の南京戦における見解は政府保有の文書において確認できないものをもとに、「公式見解」が作られており、慰安婦問題における河野官房長官談話と酷似している。
外務省ホームページの記述は、平成19年の質問主意書に対する政府答弁書の記述、「昭和12年の旧日本軍による南京入城後、非戦闘員の殺害があったことは否定できない」をもとにしたとのことだが、今回の質疑を通して明らかになったのは、その根拠となる文書が外務省に存在しないこと、根拠としている『戦史叢書 支那事変陸軍作戦』においても、意図的な非戦闘員や住民殺害は明記されていないことである。