「豊かになる前に老いる中国」の悲劇―データが示す中国経済の近未来|澁谷司

「豊かになる前に老いる中国」の悲劇―データが示す中国経済の近未来|澁谷司

全人代で李克強首相が「需要の縮小、供給網への衝撃、市場の期待の後退」という「三重の圧力にさらされている」と危機感を表明した中国経済。経済より政治が優先される習近平政権下で今何が起きているのか。確かなデータをもとに中国経済の現状と近未来を緊急分析する。


冒頭述べたように、投資・消費の伸長は共に右肩下がりになっている。なぜ、中国経済は停滞しているのだろうか。

習近平政権は、鄧小平路線の「改革・開放」を捨て、再び社会主義路線へ回帰した。また、習近平政権下では、経済よりも政治が優先されている。これでは、経済発展は難しいだろう。

具体的には、主因は3つあるのではないか。

(1)「混合所有制」改革の実施、(2)「第2文化大革命」(以下、「第2文革」)の発動、(3)「戦狼外交」の展開、である。

ゾンビ企業を存続させる「混合所有制」

第1に、「混合所有制」だが、この改革で(収益率の高い)活きの良い民間企業と(収益率の低い)ゾンビ、またはゾンビまがいの国有企業を合併した。当然、活きの良い民間企業は活力を失って行く。本来、中国共産党はゾンビ企業を救済するよりも、国有企業を倒産させた方が良いのではないか。ゾンビ企業を存続させれば、中国全体での成長は阻害されるだろう。

だが、それにもかかわらず、なぜ習近平政権は、「混合所有制」を導入したのか。もし、国有企業が次々と倒産すれば、大量の失業者が生まれ、更に社会が不安定になるからではないか。他方、「民進国退」(民間経済の拡大と国有経済の縮小)よりも「国進民退」(国有経済の拡大と民有経済の縮小)の方が、中国共産党の影響力を多くの企業へ及ぼすことができるからだろう。

「第2文化大革命」が発動

第2に、習近平主席による「第2文革」の発動である。

中国共産党は1960年代後半、毛沢東と「四人組」が始めた「文化大革命」(以下、「文革」)という政治運動で数千万もの人が死傷した。「文革」のために、中国社会全体が傷ついたと言っても過言ではない。1980年代前半、同党は、「文革」を完全に否定し、二度と同じ過ちを繰り返さないと誓っていた。

しかしながら、習近平政権は「第2文革」を推し進めている。

具体的には、①西欧的価値観(自由・民主主義、基本的人権)の否定、②(習近平主席への)個人崇拝の奨励、③「習近平思想」学習の強要、④宗教への全面的禁圧、⑤ウイグル人をはじめとする少数民族への弾圧、⑥人権派弁護士へ抑圧、⑦香港への圧政、⑧「密告」(<共産党の教えとは異なる>親や教師の言説を党に通報させる)制度の復活、などである。

近頃、中国共産党は、学校の宿題を禁止したり、学習塾を取り締まったりしている。また、18歳未満の子供のゲーム時間を週末1時間に制限した。更に、当局は、“低俗な”番組をテレビなどから排除し、中国の文化を重視するよう通達を出している。

関連する投稿


中国を利するだけだ!「習近平失脚説」詐術の構造|遠藤誉【2025年10月号】

中国を利するだけだ!「習近平失脚説」詐術の構造|遠藤誉【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『中国を利するだけだ!「習近平失脚説」詐術の構造|遠藤誉【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国と対峙し独立を勝ち取る戦いを行っている南モンゴル。100年におよぶ死闘から日本人が得るべき教訓とは何か。そして今年10月、日本で内モンゴル人民党100周年記念集会が開催される。


「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】

「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】

月刊Hanada2025年9月号に掲載の『「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

イランとイスラエルは停戦合意をしたが、ホルムズ海峡封鎖という「最悪のシナリオ」は今後も残り続けるのだろうか。元衆議院議員の長尾たかし氏は次のような見解を示している。「イランはホルムズ海峡の封鎖ができない」。なぜなのか。


ヨーロッパ激震!「ロシア滅亡」を呼びかけたハプスブルク家|石井英俊 

ヨーロッパ激震!「ロシア滅亡」を呼びかけたハプスブルク家|石井英俊 

ヨーロッパに君臨した屈指の名門当主が遂に声をあげた!もはや「ロシアの脱植民地化」が止まらない事態になりつつある。日本では報じられない「モスクワ植民地帝国」崩壊のシナリオ。


最新の投稿


【読書亡羊】韓国社会「連帯」と「分断」の背景に横たわる徴兵制の現実とは  金柄徹『韓国の若者と徴兵制』(慶應義塾大学出版会)|梶原麻衣子

【読書亡羊】韓国社会「連帯」と「分断」の背景に横たわる徴兵制の現実とは 金柄徹『韓国の若者と徴兵制』(慶應義塾大学出版会)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【徹底検証!】フェイクだらけの「石破辞めるな」報道|楊井人文【2025年11月号】

【徹底検証!】フェイクだらけの「石破辞めるな」報道|楊井人文【2025年11月号】

月刊Hanada2025年11月号に掲載の『【徹底検証!】フェイクだらけの「石破辞めるな」報道|楊井人文【2025年11月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


救急隊員が語ったラブホテルのやばすぎる怪現象|なべやかん

救急隊員が語ったラブホテルのやばすぎる怪現象|なべやかん

大人気連載「なべやかん遺産」がシン・シリーズ突入! 芸能界屈指のコレクターであり、都市伝説、オカルト、スピリチュアルな話題が大好きな芸人・なべやかんが蒐集した選りすぐりの「怪」な話を紹介!信じるか信じないかは、あなた次第!


日本心臓病学会創設理事長が告発 戦慄の東大病院⑥無気力な東大医学生たち|坂本二哉【2025年11月号】

日本心臓病学会創設理事長が告発 戦慄の東大病院⑥無気力な東大医学生たち|坂本二哉【2025年11月号】

月刊Hanada2025年11月号に掲載の『日本心臓病学会創設理事長が告発 戦慄の東大病院⑥無気力な東大医学生たち|坂本二哉【2025年11月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【マーケティングから見た政治】小林鷹之「弱者の戦略」で大逆転|松尾雅人【2025年11月号】

【マーケティングから見た政治】小林鷹之「弱者の戦略」で大逆転|松尾雅人【2025年11月号】

月刊Hanada2025年11月号に掲載の『【マーケティングから見た政治】小林鷹之「弱者の戦略」で大逆転|松尾雅人【2025年11月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。