一票に格差があってどこが悪い!|深澤成壽

一票に格差があってどこが悪い!|深澤成壽

選挙の度に問題となっている「一票の格差」。昨年10月の参院選もこれをもって違憲だとする訴訟が各地で相次いでいる。しかし、本当に「一票の格差」は問題なのか? 改めて考え直してみると……。(初出:2013年5月号)(本稿は著者の考えに基づき、旧仮名遣いとなっています)


少し視点を変へて、田舎の話をしよう。

戦後ほぼ半世紀、田舎はずうと大都市に貢いできたのである。

昭和から平成の始め頃まで、田舎の町村の人口は4月になると、一気に大幅な減少を見せるのが通例であつた。

昭和52年、山梨県南巨摩郡中富町(現在、合併して身延町の一部)の事例だが、人口ほぼ6600程度(当時)の町で、例月平均8人程度の自然減で推移してゐたものが、同年3月から4月にかけて、一度に44人、即ち5倍以上、減少してゐる。高校を卒業した若者たちが就職や進学などで転出するのである。

4月に直ちに転出手続きをする例は寧ろ少ないから、転出実数はこの倍はあるとみてよいだらう。

同年の町内の中学三年生(即ち15歳年齢の人口)は100人丁度であるから、18歳人口もほぼこれと同じとみて、18歳人口の半数以上が、桜咲く春4月、一斉に町外へ散って行くのだ。これはたまたま抽出した一例であり、おそらくこれは全国規模で繰り返された現象である。

彼らの行く先は主として東京、若しくはその周辺の首都圏大都市である。

大都会はいいとこ取り

就職した若者たちは、直ちに大都市の経済活動を支へる労働人口の一員である。同時に、旺盛な消費者として都市の繁栄に寄与することとなる。就職したばかりの子供たちに、さらに仕送りをする親たちも少なくない。高卒の乏しい給料だけでは生活が苦しからうとの親心である。つまり、彼ら少年少女たちは稼ぎ以上に消費してくれるのだから、大都市商業の賑はひは愈(いよいよ)盛んになる訳だ。

進学した子供たちへの仕送りはさらに大変だ。2、3人、東京の大学へ入学させた親で、毎月数十万円送金したなどの例も幾つか聞いた。高度経済成長の時代とは云へ、懸命に働き、涙ぐましくもつましく暮らし(親馬鹿などの評価は別として)、子供への送金も楽ではなかつたらう。私鉄によくある「なになに大学前」の駅周辺の商店街の繁栄は、その田舎の親の苦労の果実を頂戴してゐたのである。

その子が卒業して就職すれば、今度こそ一人前の生産人口にして且つ旺盛な消費人口、大都市の活力の源である。しかし、そこまでに育て上げたのは誰か。

誕生時から乳幼児の保育、町村立の小中学を経て高校まで、地元自治体と親が、手塩(と予算)に掛けていつくしみ、育て上げ、やつと一人前にして、さてこれからと云ふところで、東京などの大都市へ送り出すのだ。

旺盛な生産(消費)活動の全盛期を終へ、定年退職した、若しくは事業をリタイアした高齢者が田舎へ帰つて来る事例も少なくない。固より大歓迎だが、疾病罹患率の高い高齢者の医療費負担は、地元自治体の国保に掛かつてくる。幼少期と高齢期が田舎の分担だ。

大都市は、良いとこ取りではないか。

これを延々と戦後半世紀、集団就職の中学生が金の卵などと持て囃された時代から例年、続けて来たのである。

大都市の今日の繁栄を築き上げ、支へて来た基(もとい)となるべき人材、人的資源(と消費資金)を供給して来たのは、紛れもなく地方の町や村、そしてそこに残つた親たちなのだ。

然し今はもう、供給する余力は無い。地方は疲弊し尽くし、年老いた老父老母たちが、空家だらけの限界集落にしよんぼりと残つてゐる。

首長も職員も良くやつてはゐるが、地方は疲弊し尽くしてゐる。大都市に捧げ尽くし、貢ぎ尽くしたのである。斯かる現実を、不遜なる原告グループや最高裁判事はどれほど認識してゐるのか。

多数決原理は万能か

関連する投稿


『腹黒い世界の常識』「まえがき」を特別公開!|島田洋一

『腹黒い世界の常識』「まえがき」を特別公開!|島田洋一

「本書は、反日勢力が仕掛ける各種工作の実態を明らかにし、対処法を示すべくまとめた」国際政治学者の島田洋一名誉教授が書きおろした理論武装の書にして、戦略の書の「まえがき」を特別公開。


地方選惨敗後の「共産党声明」が“ヤバすぎる”|松崎いたる

地方選惨敗後の「共産党声明」が“ヤバすぎる”|松崎いたる

統一地方選挙で惨敗した日本共産党。だが、選挙翌日に出された「声明」は驚くべきものだった。もはやできないとわかっていながら、突き進むしかない“玉砕政党”の深刻すぎる実態!『日本共産党 暗黒の百年史』の著者で元共産党員の松崎いたる氏による「こんなに変だよ日本共産党」第4弾!


日本共産党「選挙活動」の舞台裏|松崎いたる

日本共産党「選挙活動」の舞台裏|松崎いたる

「SNSの活用なくして選挙勝利なし」―党員の平均年齢が70歳以上、スマホをもたない党員に対してもこう檄を飛ばし、党勢拡大のためなら個人情報の利用も厭わない。我が子を児童虐待する女を候補者に据えるなど“やりたい放題”の選挙活動。『日本共産党 暗黒の百年史』の著者で元共産党員の松崎いたる氏による「こんなに変だよ日本共産党」第3弾!


日本人よ、雄々しく立ち上がれ|櫻井よしこ

日本人よ、雄々しく立ち上がれ|櫻井よしこ

わが国は現在も中国に国土売却を続けている。エネルギーの源である電力網にさえ中国資本の参加を許している。


『日本共産党 暗黒の百年史』を書き終えて|松崎いたる

『日本共産党 暗黒の百年史』を書き終えて|松崎いたる

元共産党員が克明に綴った内部告発の書。党史研究の最高傑作が遂に刊行!日本共産党がこれまでやってきたこと、これからやろうとしていることが全て分かると話題!


最新の投稿


【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。