一票に格差があってどこが悪い!|深澤成壽

一票に格差があってどこが悪い!|深澤成壽

選挙の度に問題となっている「一票の格差」。昨年10月の参院選もこれをもって違憲だとする訴訟が各地で相次いでいる。しかし、本当に「一票の格差」は問題なのか? 改めて考え直してみると……。(初出:2013年5月号)(本稿は著者の考えに基づき、旧仮名遣いとなっています)


隠然たる潮流有りや無しや

新聞、テレビなど凡ゆるメディアが「格差」批判一色の異様な情景を呈してゐるが、これを遠慮勝ちに疑問視する声なら、先般、わづかに聞くことを得た。

一人はテレビの6チャンネル「朝ズバ」と云ふ番組だつたと思ふが、元特捜検事の若狭勝氏が、この「一票の格差」判決が話題になつた時、法曹家としてはこれに遵(したが)ふしかないが、一國民としては、地方の過疎地への配慮は有つてもよいと思ふと、一言だけ控へ目に異見を述べてゐた。「法曹家こそ異見を述べるべし」、とするのが私見であるが、元特捜検事氏のそれは、洵(まこと)に遠慮がちな独語であつた。

もう一人は、立命館大学教授の加地伸行氏である。産経新聞の2012年12月20日付の「古典個展」と題する所論で、「都市と地方 寄り添うべし」として、「人口基準という、単純な子供向きの多数決絶対の民主主義は(略)法律教条主義に基づく主張であり、それと生きた政治は別なのである。最高裁判決どおりに議員定数を是正すると、地方はえらい目に逢うことであろう」として、漢学者らしく後漢書を引用してをられた。「小人法制を用うれば乱に至る」(仲長統伝)と。

わづか二例だが、控へ目であれ表面に出た二例があれば、その背後にこれに同ずる隠然たる潮流があると見てよいだらう。

原告に正義はない

もう20年前か30年前か記憶も定かでないが、この問題の余りの喧噪、一方的なマスコミ論調に悲憤慷慨遣る方なく、一往著名な幾つかの新聞雑誌、6、7社に投書を送り付けてみたことがある。

小生の文章はおよそ投書欄向きでないことは百も承知だが、それでも一つくらゐは引つ掛かるかと僅かな期待も空しく、見事に全部ボツであつた。と思つたところ、忘れたころになつて一つだけ採用になつた。どの媒体であつたか、これも記憶にないのだが……。

「……若しアメリカ上院の制度に倣ひ、参議院制度に断乎たる斧鉞を加へ、各都道府県三名の定数として構成したとすれば、衆参両院で七百余人の國民代表が協議して議決したこの制度を、わづか15人の裁判官が違憲だから許されぬとして廃棄を命じ得るのか」と記述しておいたのだが、この「断乎たる斧鉞を加へ」の所が「大改革して」と修文されてゐたので、投書欄担当記者がやりさうな事だと苦笑し、それでもまあ採用しただけ益しかと記憶に残つた次第で、その後今日まで、前記ご両所の所感に逢ふまで反対論に寓目したことはない。

然し、表に現れぬ潮流として、この「一票の格差」弾劾の声高な威圧的論調への反感は、声なき声、声に出せぬ声として、必ずある筈である。なぜ声に出せぬのか。なぜその声が控へめなのか。世人一般に、正義は彼ら原告側に在りとの思ひ込みがあるからであらう。然し、彼らに正義はない。本稿はそれを論証してゐる。

都市に貢いできた田舎

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