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柔軟な判例
即ち第14条は、「法の下に平等」と、一般則としての大枠を示したのみで、後は立法府(国権の最高機関)の良識に委ねてゐるのである。
「法の下に平等」とは、狭義には法律は万人に遍く平等に適用される、の意であり、法治国として当然の原則であるが、これを広義にとれば、右に見たとほり融通無碍の幅がある。この辺は最高裁も、初期に於いては妥当な判断を示してゐる。
『本条は、人格の価値が全ての人間について平等であり、人種、宗教、男女の性、職業、社会的身分等の差異に基づいて、あるいは特権を有し、あるいは特別に不利益な待遇を与えてはならないという大原則を示したものであるが、平等の原則の範囲内において、各人の年齢、自然的素質等の各事情を考慮して、道徳、正義、合目的性等の要請より適当な具体的規定をすることを妨げるものではない(最高裁大法廷判決・昭和25年10月11日。有斐閣・判例六法Pro-fessional平成25年版による。以下同じ)。』
『本条一項に列挙された事由は例示的なものであって、必ずしもそれに限るものではないが、同項は國民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱いをすることは否定されない。(最高裁大法廷判決・昭和25年10月11日)』
これは穏健妥当な良識的判断と評して良いだらう。
此処に示された幅広い立法府の裁量を許す判例の基礎の上に、どうして選挙制度の「一票の格差」の場合に於いてのみ、厳格な教条的判決が生じたのか。
選挙制度についての憲法の規定と司法の越権
そもそも憲法は、民主政治の基礎を成す選挙制度については入念である。第14条で列記された差別は、憲法の別条に依つて重ねて明示的に禁じられてゐる。
[憲法第15条 ・公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する]
[憲法第44条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない]
普通選挙とは、一般に「身分・性別・教育・財産・所得などによる制限を禁じた選挙」と解されてゐる。
即ち、投票権に於いては、戦前存在した制限選挙──大正14年に普通選挙法が可決されるまで、直接國税を一定額以上納入した男子にのみ投票権が与へられてゐたのだが──斯かる差別は許されない。第44条の但書は、更に重ねてこれを確認したものである。
第15条と第44条だけでなく、改めて別条を置いてゐる。
[第47条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める]
即ち憲法は、禁止事項については幾重にも念を押して明示し、それ以外は、第47条に於いてこれを立法府に委ねてゐるのである。
ここまで叮嚀(ていねい)に規定された憲法に基づいて制定された選挙制度を、最高裁は憲法違反として斥(しりぞ)けた。
法の下に平等と云ひ条、選挙と課税措置、この取り扱ひの歴然たる差別、適用の偏頗は(へんぱ)、如何なる思想、如何なる判断に由来するのか。
何れにもせよ、選挙制度に於いてのみ斯かる偏執狂じみた平等原理の「拡大解釈の厳格な適用」を以て、第47条に基づいて制定した立法府の判断を否定するのは、司法府自ら憲法第44条に重ねて一条を付加したに等しい越権であり、俗流世論の大勢に迎合する余りの、最高裁正気の喪失と云ふべきである。