4月21日に同じソウル地裁(裁判官は異なる)は、元慰安婦が日本国に対して起こした裁判で、国家は他国の裁判の被告にならないという「主権免除」原則を適用して原告の訴えを退けた。人道に反する国家犯罪だから主権免除の例外だとして日本国に賠償支払いを命じた1月の判決を覆すものだった。
日本側が勝訴した最近の二つの判決を見て、文在寅政権が日韓関係を改善したいと動いており、韓国司法がそれに影響を受けたのではないかとの観測が出ているが、私はその見方に反対だ。4月の慰安婦判決は、慰安婦の公権力による強制連行を事実とし、国家犯罪だから主権免除の対象になるが、慰安婦の賠償請求権はいまだに残っているので外交で解決せよと命じていた。これでは日韓関係の改善にはつながらない。
今回の堂々たる判決は、任期残り1年を切った文在寅政権のレームダック化により相対的に反日左派の力が落ちてきた結果ではないか。また、『反日種族主義』や拙著『でっちあげの徴用工』韓国語版などが出版され、戦時労働者問題で事実認識が広まってきたことも影響を与えたかもしれない。韓国与党と左派メディアは金判事を売国奴だと激しく批判したが、通常は反日ポピュリズムに流される朝鮮日報などが判決を支持し、世論は割れている。(2021.06.14 国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)
モラロジー研究所教授、麗澤大学客員教授。1956年、東京生まれ。国際基督教大学卒業。筑波大学大学院地域研究科修了(国際学修士)。韓国・延世大学国際学科留学。82〜84年、外務省専門調査員として在韓日本大使館勤務。90〜02年、月刊『現代コリア』編集長。05年、正論大賞受賞。17年3月末まで、東京基督教大学教授。同4月から、麗澤大学客員教授・モラロジー研究所「歴史研究室」室長。著書に『でっちあげの徴用工問題 』など多数。