その中でも菅首相がこだわるのは技能実習生だ。昨年1年間で実に10万5000人の技能実習生が入国していることからも、そのことが窺える。
都内ではマスクもせず、たむろして大声で話す技能実習生と見られるグループに出くわすことがある。前述のように厳格な2週間隔離がおこなわれていない日本で、外国からの入国者が増えるにつれて感染者が急拡大していったのは当然だっただろう。
GoToトラベル停止や、飲食店に責任を被せる前に「政府はほかにやることがあるだろう」と国民は怒っている。蛇口を開けっ放しにしたまま、いくら国民に協力を要請しても共感を得られないのは当然だ。たまたま英国発の変異株問題で外国人の入国がクローズアップされたものの、国民の不信感はすでに限界に達しているのである。
12月下旬、ビジネスで来日した中国人に話を聞く機会があった。日本の政策がいかに問題か浮き彫りになるので紹介しよう。
「仕事で日本に来ましたが、中国から日本へ来ることに障害はありません。日本は入国の際に申告が必要なだけでほかに何もないですからね。問題なのは中国へ帰る時です」
なにが問題なのか。
「中国では一人の感染者が出ると、地区全体が封鎖になって住民全員がPCR検査をやらなければなりません。
何キロ四方にも及ぶ広大な範囲でやるんです。
地方では町全体を封鎖して検査することもある。そのくらいウイルスに神経を使っています。
だから私たちが帰国する時は大変です。
大使館指定の病院でPCR検査と抗体検査を両方やり、陰性証明書があれば搭乗できますが、入国時にまた検査をやります。そして陰性でも2週間の隔離です。
一歩も外へ出られない厳しいものですよ。
ホテルで食事も運んできてくれるし、掃除もやってくれますが、一歩も出てはならないので大きなストレスになります」
ウイルスへの厳しい取り組みがわかる。
「陽性なら伝染病センターに直行で強制入院です。帰国後が大変なので外国に出るのは皆、嫌がります。日本がここまでウイルスへの警戒が薄い理由が、私にはわかりません」
国際間の外交措置は相互主義が基本。だが日本の場合は、相手国からはフリーで受け入れ、こっちは規制されるという“不相互主義”だ。そこまで舐められてもこれをやりたい菅首相。支持率急落の理由が奈辺にあるかは自明だろう。
(初出:月刊『Hanada』2021年3月号)
著者略歴
作家、ジャーナリスト。1958年、高知県生まれ。中央大学法学部卒業後、新潮社に入社。週刊新潮編集部に配属され、記者、デスク、次長、副部長を経て、2008年4月に独立。『この命、義に捧ぐ―台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』(集英社、のちに角川文庫)で第19回山本七平賞受賞。近著に『オウム死刑囚 魂の遍歴―井上嘉浩 すべての罪はわが身にあり』(PHP研究所)、『新聞という病』(産経新聞出版)がある。