どれだけ偉大な存在であったか
安倍晋三元総理(以下、安倍総理)が暗殺されてから7月8日で1年となる。いまでも悔しく、喪失感に堪えない。安倍総理がご存命であったらと強く思うことの連続である。
総理公邸や議員会館の執務室、会食の席でお話しいただいた安倍総理の言葉の一つ一つが、私の政治家としての行動の基礎となっている。近しくご指導いただいたのは、次の世代でも安倍総理のように強い信念を持つ政治家が育って欲しいというご意志があったのだといま改めて感じる。もっと沢山のご指導をいただきたかった。
現在も安倍総理の実績を振り返れば、どれだけ偉大な存在であったかがわかる。
内政・外交とも類いまれな実績を残されたが、内政においてはアベノミクスを推進し、低迷していた経済の再生に努めた。そのなかでも特に安倍総理は雇用環境の改善を重視した。働きたいと思う人が、働く場所を必ず得られるようにしなければならない。国民の幸せのために何よりも実行しなくてはならないと考えた。
そして実際に、アベノミクスで雇用環境の改善が急速に実現した。民主党政権末期の平成24(2012)年に0.80倍だった有効求人倍率は、平成28(2016)年には1.36倍となるとともに、史上初めて全都道府県で有効求人倍率が1倍を超えた。働きたいと望む方は、正社員か非正社員かを問わなければ、誰でも就職できる水準となった。
翌年の平成29(2017)年には、全国の正社員有効求人倍率が1倍を史上初めて超えた。つまり、給与の多寡を問わなければ誰でも正社員になれる水準になり、平成30(2018)年には1.61倍に上昇。昭和40年代(1970年代)の高度成長期と同水準の有効求人倍率となった。雇用状況の改善と諸改革による経済再生で、株価も大きく回復、極端な円高も是正された。
安倍総理の考えとは真逆の政策が次々と
ただ、安倍政権では完全に実現しきれなかったものがあった。それは、「アベノミクス3本の矢」の3本目の「民間投資を喚起する成長戦略」である。安倍総理は、この成長戦略を軌道に乗せ、国民所得や給与水準を上げていきたいと取り組んでいたが、健康状態の影響で道半ばで退任し、後進に託すことになる。
これを受け誕生した菅義偉総理は、アベノミクスを完成させるために、成長戦略として「デジタル化」「カーボンニュートラル」の実現を表明し、その施策に邁進した。そして、民間投資が喚起され、徐々にではあるが給与水準の上昇が始まった。アベノミクスは後世において、日本の経済を危機から救った大きな経済政策として評価されることであろう。
しかし、こうした安倍総理の取り組みや考えからは真逆の政策が推し進められようとしている。
例えば防衛費増額における財源問題である。令和9年度までの5年間で防衛費を43兆円確保することは当然の政策であるが、年間で不足するとされる4兆円の財源のうち1兆円を増税で賄うとの方針が示されている。この1兆円は増税せず捻出できる可能性が極めて高く、増税ありきの1兆円ではないかの疑念を私は持つ。
安倍総理は「増税は極力しない」という考えを持っており、防衛費増額においては「防衛国債」の発行を提唱していた。「国債は将来世代に借金を残す」などと言う人がいるが、安定した国防は将来世代も利益を享受するものであり、いまの世代も将来世代も均等に負担する国債方式のほうが理にかなっているのである。
しかし、「防衛国債」発行を私は防衛費増額の党内議論で、安倍総理の発言や考えを示して繰り返し提起したものの、全く取り扱われなかった。しかも、安倍総理からご指導いただいていた方から、「増税で行くべき」との発言が出たときには、何とも言えない感情になった。その方は、増税が当たり前かのごとく発言していた。