バイデン政権を「身体検査」する!|島田洋一

バイデン政権を「身体検査」する!|島田洋一

どの色に染まるか分からない「カメレオン左翼」カマラ・ハリス副大統領を筆頭に、警戒すべきジョン・ケリーや党官僚タイプのアントニー・ブリンケンなどバイデン政権の閣僚をいち早く「身体検査」することで見えてきた新政権の実像。


台湾問題も眼中にない

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副大統領は憲法上、上院議長を兼ねる。ハリスは現職の上院議員でもある。その気になれば、議長予定者の立場から、上院を舞台にさまざまな対中アクションを起こせるはずである。しかし、小指すら動かす気配がない。ハリスが選挙向けに2019年に出した著書『我々が抱く真実』(The Truths We Hold、未邦訳)を通読しても、中国の人権に関して一行の記述もない。  

わずかに中国に批判的に言及したのは、「合成ヘロイン」としての乱用が問題になっている鎮痛剤フェンタニルの中国ルートでの流入を防ぐべきとした箇所と、中国が2015年以来サイバー攻撃の能力を高め、アメリカのテクノロジーを窃取していると、誰もが知る事実をなぞった7行分ほどのみである。  

めてハリスには、この2分野での対抗措置を先導してほしいところだが、既往に照らして、多くは期待できないだろう。  

10月7日のペンスとの副大統領候補テレビ討論会でも、ハリスは「中国との貿易戦争によってアメリカの製造業は30万人の雇用を失い、不況に陥った」と後ろ向きのトランプ批判に走っただけで、積極的な対中政策論は何も打ち出さなかった。  

同じく女性リーダーとして中共と対峙する台湾の蔡英文総統にエールを送ってもよさそうだが、著書でも演説でも、管見の限り、全く触れたことがない。蔡英文はおろか台湾問題自体、視野に入っていないごとくだ。対中国で、終始先陣を切る役割を果たしたペンス副大統領とは雲泥の差と言える。

ハリスが誇る「武勇伝」

スタッフの人事についても、ハリスの判断には疑問符が付く。要のポジションの一つ、副大統領安保補佐官に選んだのは、職業外交官のナンシー・マケルダウニー(1958年生)。過去に外交官研修所長、国務次官補代理(欧州担当)、駐ブルガリア大使、駐トルコ、アゼルバイジャン公使などを務めた経歴を持つが、東アジアは専門外で、戦略的発想ができる人物という評価も伝わってこない。せいぜい、ハリスが外交常識を踏み外さないようアドバイスする程度の役割しか果たせないのではないか。期待を抱かせる人事とは言えない。

ハリスの本にもう一言だけ触れると、実績として高く掲げているのは、いかに性的マイノリティ(LGBTQ)の権利拡大に尽力したかという点である。同性婚問題に、繰り返し相当なページが割かれている。  

上院議員(2016年初当選で現在一期目)としての事績で最も強調されているのは、情報委員会、司法委員会のメンバーとして、CIA長官候補や裁判官候補を承認公聴会で厳しく追及した「武勇談」である。  

たとえばポンペオCIA長官(のちに国務長官)の承認に当たって、ハリスは「気候変動の科学を受け入れない姿勢が情報機関の長としてふさわしいと思うか」と質問した。そのことで、保守派の各方面から「間抜け」「愚か」 「的外れ」などと批判の集中砲火を浴びたと記している。  

しかし、気候変動は貧困を悪化させ、政治的不安定を発生させる点で「脅威の増幅器」であり、国家安全保障上の脅威と捉える自分のほうが正しいというのがハリスの主張である。そうした主張は自由だが、情報機関のトップ候補に対し、それしか訊かないというのでは不見識の謗りは免れないだろう。

ところで、①気候変動こそ安全保障上の最大脅威②その課題に立ち向かうに当たり、中国は敵やライバルではなく、「パートナー」と位置付けられるべき、というのはバイデン、ハリスのみならず、民主党の政治家に広く共通する認識である。  

この点、①中国共産党こそが安保上の最大脅威②気候変動に関して中共と協議すべきことはない、とするトランプ政権や共和党一般の立場とは大きく異なる。

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