警戒すべきジョン・ケリー
バイデンが発表した政権幹部人事のうち、中国との関係で大いに警戒を要するのが、ジョン・ケリー元国務長官(1943年生)の「気候変動問題担当大統領特使」への起用である。新設のポジションだが、閣僚待遇とされている。すなわち、国務長官その他を通さず大統領と直接やりとりができ、国家安全保障会議(NSC)の正式メンバーともなる。
ケリーはオバマ政権時代に、国務長官としてイラン核合意をまとめた名うての宥和派である。
イラン核合意の重大欠陥
対北朝鮮政策とも関連するので、トランプ政権が「最悪のディール」と批判し離脱した(2018年5月8日)イラン核合意の問題点を改めて整理しておこう。
ちなみに同合意は2015年7月、イランとアメリカに英独仏中露を加えた7カ国の間で成立した。北の核問題をめぐる6者協議(米朝中露日韓)と枠組みが似ている点に注意したい。
バイデンやケリーは、オバマ政権の最高幹部として、イラン核合意を大きな外交成果と喧伝してきた。将来的に、その「成功体験」を北にも適用しようという誘惑に駆られかねない。日本としては常にその可能性を念頭に置き、早め早めに牽制していく必要がある。
さて、イラン核合意の問題点である。箇条書きにしておこう。
①イランのウラン濃縮活動を、放棄でも凍結でもなく、単に「制限」する内容である(イランが保有する約2万本の遠心分離機のうち、旧型の約8000本については運転を認める)。しかも10年の期限付きで、10年後にはイランは自由にウラン濃縮ができる。またその間、新型遠心分離器の開発も認められる。 「イランが核兵器獲得を目指しても、獲得まで1年は掛かる状態を少なくとも10年間維持できる」とケリーらは「成果」を強調したが、オバマ大統領自身、「合意から13年ないし15年後には、核兵器獲得までの所要時間はほぼゼロになる」と認めている。すなわち、反対派が指摘するように、「イランが仮に合意を守っても、十数年後には核兵器を持ちうる内容」であった。
②検証規定に穴がある。たとえば核爆発実験の疑いがある施設の土を、イラン側が採取して国際原子力機関(IAEA)に渡すとなっている。下院議員時代のポンペオらが大いに問題にした点である。ある共和党議員は、「ドーピング検査のサンプルを選手自身が採取し郵送してよいというに等しい」と表現した。
③ミサイル開発に何の制限も課していない。
④イランにテロ放棄を約束させずに、米銀が凍結していた資金の引き出しを認め、経済制裁の多くも解除した。イランは入手した資金をもとに、ヒズボラ、ハマス、シリアのアサド政権などへの支援を強化し、中東情勢を不安定化させた。
以上が、イラン核合意の欠陥として指摘される点である。ちなみに当時、米上院では、全共和党議員に加え、チャック・シューマー院内総務を含む4人の民主党議員も反対の立場を明らかにした。 そのため、条約案(批准に上院の3分の2以上の賛成が必要)はおろか、賛成決議案(過半数で成立)の提出すら民主党側はできなかった。あくまで行政協定(大統領権限でできる)として署名されたものである。 イラン核合意からの離脱は決してトランプの「暴走」ではない。議会の多数意思でもあった。バイデン政権成立を控えたいま、オバマ、バイデン、ケリーの「前のめり」こそが、改めて批判的に検証されねばならない。