反論をいくらしても状況が変わらないのはなぜなのか。
ミッテ区議会が歴史的事実認定の参考としたのが、日本外務省ホームページに掲載されている河野談話だというのだ。議会で交付された文章を見ると、たしかに日本外務省ホームページのリンクが掲載されている。
1993年に出された河野談話以降、様々な談話や声明が出されており、今回のベルリンの慰安婦像騒ぎに際しては、外務省も改めて反論の意味を込めた文章を発表した。
それは従来に見られない積極的な行動だったが、河野談話をはじめ、謝罪してその場を切り抜けようという意図で書かれた文章の数々をそのまま載せていたら説得力が大幅に減殺され、揚げ足を取られるに決まっているではないか。
私が朝日新聞に英語記事における慰安婦強制連行を想起させる印象操作を止めるように抗議した際も、朝日新聞は河野談話を根拠に修正に応じなかった。河野洋平氏が損ねた国益は計り知れない。
改めて外務省ホームページを確認したが、相変わらず英語サイトと日本語サイトの構成が違う。どちらも整合性を無視したチャンポンであることには変わりはないが、英語サイトは過去の発表された談話類の全てを羅列している。
まず英語サイトだが、「歴史に関する問題」というページがある。2019年11月19日の日付があるので、1年前に更新されたことになる。
冒頭に、首相、官房長官、外務大臣の最近の声明と題してリンクが貼ってある。トップは2014年3月14日付の参議院予算委員会での安倍首相による発言で、4つのポイントに要約している。(以下、山岡翻訳)
□歴史認識について安倍政権は、終戦50周年と60周年の村山談話と小泉談話を完全に継承する。
□慰安婦問題に関して、計測不能な痛みと困難を経験された慰安婦の方々のことを思うと胸が痛み、前任者と思いを共有する。
□河野談話がこの問題を取り上げている。これは官房長官談話であり、菅官房長官が記者会見で述べたように、安倍政権で河野談話を見直す意図はない。
□先に述べたように、我々は歴史に謙虚に向き合わなければならない。歴史問題は政治問題や外交問題に転化されるべきではない。歴史検証は専門家と歴史家の手に委ねられるべきである。
これを外国人が読めば、日本の慰安婦制度は著しい女性の人権侵害であり、強制連行や性奴隷化を日本政府は否定していないと理解するだろう。この下には、2014年3月3日付の菅官房長官と記者の会話を書き起こしたものがリンクされている。
記者 安倍総理が歴史認識に関しては前任者の見解を継承すると言ったが、それは村山談話や河野談話を継承すると理解して間違いないか?
菅官房長官 以前申し上げたとおりです。
記者 安倍政権が河野談話を継承することについてその整合性をどう説明するのか?
菅官房長官 なんの矛盾もない。第一次安倍政権でも河野談話を継承した。河野談話を保持するのが日本政府の基本的な立場だ。
さらに歴史問題Q&Aが続き、その下には村山談話、加藤紘一談話、河野談話、アジア助成基金関連を含めて過去の発信が網羅的にリストされている。
負けるべくして負けた日本
一方、日本語サイトの構成はなぜか違っている。前述の安倍首相の参議院予算員会での発言の前に、安倍首相の終戦70周年談話が載っており、菅官房長官の記者会見は載っていない。
その後、小泉首相の終戦60周年談話、町村外務大臣がニューヨークで行った「戦後60年を迎えた日本の世界戦略と日米関係」という政策スピーチの和訳があり、再度小泉首相のアジア・アフリカ首脳会議におけるスピーチ、そして村山首相終戦50周年談話と続く。
不思議なことに、河野談話が見当たらない。しかしよく見ると、下のほうに慰安婦のセクションがあり、そのなかにある「日本政府による調査と内閣官房長官談話」というリンクがある。それをクリックすると、さらに「平成5年8月4日の内閣官房長官談話」というリンクがあり、それをクリックすると河野談話が現れるのである。
英語サイトでは河野談話を前面に押し出し、日本語サイトでは河野談話を目に触れない場所に隠しているかのようだ。この外務省ホームページをベルリン市ミッテ区議会が検証したら、日本政府が悲惨な慰安婦制度を歴史的事実として認定していると考えても仕方がないだろう。
彼らの左翼的思考のせいだけにはできない。日本外交は河野談話を前面に押し出し、それゆえに負けるべくして負けたのである。私を含めた民間人がいくら反論しても、日本政府の公式見解の前には霞んでしまう。
今回、慰安婦像の保持に賛成した区議たちのなかには、設置許可期限が切れる1年後に、区議会が関与しながら、碑文の内容も見直し、より一般的なオブジェにして永久設置すべきだという意見が見られた。コリア協議会は、間違いなく設置許可期限の延長を申請するだろう。
日本大使館は、全力で慰安婦像の抽象化と一般化の実現に取り組む必要がある。しかし外務省ホームページがいまのままでは、未来永劫に日本の汚名が晴らされることはないだろう。
ベルリンの慰安婦像問題を教訓として、全面的な見直しに取り組むべきだ。
著者略歴
情報戦略アナリスト。日本国際戦略研究所(DMMオンラインサロン)主宰者。公益財団法人モラロジー研究所研究員。1965年、東京都生まれ。中央大学卒業後、シドニー大学大学院、ニューサウスウェールズ大学大学院修士課程修了。22014年4月豪州ストラスフィールド市で中韓反日団体が仕掛ける慰安婦像公有地設置計画に遭遇。シドニーを中心とする在豪邦人の有志と共に反対活動を展開。オーストラリア人現地住民の協力を取りつけ、一致団結のワンチームにて2015年8月阻止に成功。現在は日本を拠点に言論活動中。著書に、国連の欺瞞と朝日の英字新聞など英語宣伝戦の陥穽を追及した『日本よ、もう謝るな!』(飛鳥新社)など。