スクープ!中国拘束116日はじめて明かされた全真相|吉村剛史

スクープ!中国拘束116日はじめて明かされた全真相|吉村剛史

「彼らの狙いは王毅だった」――中国で拘束された岡山県華僑華人総会のトップがはじめて明かした拘束116日間の驚くべき全貌。屈辱の“拷問体験記”!


〈私を急に拘束して帰さない、連絡も出来ない状態に置くことに腹が立つ。(※中略)…こいつらの共産党、共産党という言葉に対し、自分は国外に住む、日本で生まれ育った華僑2世、中国共産党員でもなければ中国スパイ法(※反スパイ法)等、聞いたこともない!!海外に住む中国人の町内会長の一人である私をこんな扱いをする独裁政治集団は許さない!」と思い始める。

「お前等は一人でも困難な同胞を救った事があるのか!!私は40年間同胞を助け支援している。その結果、家も失った!!」…と。  毛(※沢東)主席が言っている。「一度良い事をするのは誰でも出来る。尊いのは、死ぬまで人に奉仕出来るかどうかだ!!」と彼らに対し大声で叫ぶ。それも一方通行。彼等は返事もしない。(※取り調べ官の)一番偉い人を含め名前は不明である。トップはボス、下の人は全員リーダーと呼ぶ。決して個人名は言わない。そういう秘密組織なのだ〉  

劉氏によると、主な取り調べ官は5人。「ボス」は中国共産党の代弁者らしく、その言葉は絶対だった。「質問の仕方は強引で、聞き出そうとする答えが違う場合には、感情的になり大声を発することもあった」。これをフォローするのが第一リーダーで、「同じ質問を、角度を変えてみるなど工夫していた」。また「第二リーダーが一番人間らしく、こちらの返答も忠実に伝えてくれる」。 「第三リーダーは、質問時は大変厳しいが、質問時以外は人間味があった。第四リーダーはボスと第一リーダーにへつらい、下の者には嫌われていた。時々彼が(通訳専門官に代わって)通訳を担当することもあったが(日本語の)レベルが低く、何度叱責した」といい、係官は役割分担しながら取り調べを行っていた様子が窺える。

なぜ拷問に近い取り調べに耐えられたのか

劉氏が拷問に近い取り調べにも耐えることができたのも、「自分は40年間、同胞を助け支援してきた」という確たる信念があったからこそだろう。一枚岩のように思われがちな在日華僑・華人社会だが、1970年代までに海外に移住・定住していた老華僑・華人と、改革・開放の流れで70年代後半以降に出国した新華僑の意識には「ずれ」もある。特に、最近の来日中国人のマナーの悪さなどでは、「長い年月をかけて日本社会で築いた自分たちの信用が崩れる」として、快く思わない老華僑・華人も多い。  

劉氏は日本社会に不慣れな中国人留学生にゴミの出し方などの公共ルールや近所づきあいのマナーまで指導し、自身が経営していた中華料理店のアルバイトも開放して経済的に学業支援するなど、最終的には2010年に同店をたたむまで、日中の相互理解促進や、新華僑・老華僑の融和にも熱心だった。  

もちろん、裏を返せば、これまでの劉氏は、中国にとって日本での中国の影響力を強化する事実上の「工作員」という一面もあっただろう。実際に劉氏は、1985年ごろに中華料理店の支配人を経て独立した際も、「愛国的である」として北京市政府要人から一流ホテルの料理人の斡旋を受けた。店は、来県した李鵬首相をはじめ訪日中国要人を迎える機会も多く、繁盛した。  

台湾の李登輝元総統が総統退任後の2001年4月、倉敷市の倉敷中央病院で心臓カテーテル手術を受けるために来県した際は、台湾を核心的利益とし、李氏を「台湾独立勢力の総代表」とみなす本国の意向に沿って訪日反対運動も展開した。そうした自身の「功績」を蔑ろにされた、という思いが強かったのだろう。手記の文面には「祖国からのスパイ扱い」に対する強い憤慨がにじみ出ている。

国際電話で「すぐに帰るから騒ぎにしないでほしい」

ちなみに、当時、劉氏が中国当局に拘束された可能性を報じたのは2017年2月9日付以降の産経新聞のみで、同紙岡山支局長だった筆者のスクープだった。劉氏は、自分のことが新聞報道されたことは「取り調べ官から知らされた」と証言する。  

劉氏が通訳とともに1泊2日の出張から帰ってこないことは、直後から総会や家族らが当然、問題にしており、岡山市議や県議らを巻き込んで大阪の中国総領事館などへ早期帰還を促すよう求める嘆願運動も動きだそうとしていた矢先、筆者は情報をキャッチした。  

そうした動きのなか、劉氏は一度だけ総会事務局に対し、「元気だ。すぐに帰るから騒ぎにしないでほしい」という趣旨の国際電話をかけさせられている。一時的に携帯電話が返却され、総会事務局勤務の自分の三女がいる時間を狙って事務所にかけたが、目前の係官からは「余計なことはいうな」と脅され、スピーカー機能を使っての会話で、決められたこと以外を話すことは許されなかった。  

結局、この一本の電話があったため、総会は筆者の取材に応じず、筆者は周辺者証言だけで記事にしたが、劉氏自身は「もっと騒ぎになればいいと喝采した。新聞報道で注目され、不利な扱いを受けずに済んだ」との思いを抱いている。

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