魂の叫び
劉氏は、2018年11月、岡山市内で開催された日中民間友好団体の実務会議「第16回日中友好交流会議」に合わせ、「第58回旅日福建同郷懇親会・岡山大会」を開催。事前準備で香港・マカオに出張したが、中国が国家安全維持法を施行した昨今の香港情勢を見て、「今後は香港にも行けなくなった」と思っている。同大会後は「中国共産党の圧力などで周囲に迷惑をかけないように」と、地域の役職である県華僑華人総会会長と中国四国地区華僑華人総会会長などを除き、全国組織である日本華僑華人聯合総会の常務委員や、全日本華僑華人中国平和統一促進会の副会長職を辞任した。
しかし同胞への支援活動は続けており、最近では倉敷市内の和食料理店で技能実習生として働く中国人男女5人が、実習計画外の長時間労働や賃金未払い、パワハラなどにあっているとして、大阪の中国総領事館担当者らに支援を求める手伝いなどに追われているが、「以前に比べ、担当者もどこか事務的な印象。世代変化のせいなのか、いまの中国の指導部の影響なのか」と首を傾げる。ビザ申請の際には、両親の生年月日や会社の社長名など従来求められなかった個人情報の記入も求められるようになったという。
米中の対立がますます先鋭化するなか、手記を〈中国国内の力関係に左右されるわれわれではない。信念に基づき行動するのみ〉と締めくくった劉氏は、「こんな思いをするのは私で最後にしてほしい。どうか立派な、誇りに思える祖国であってほしい。私なりの愛国心から、中国共産党の恐怖政治に意見したい。おかしいことはおかしいと、誰かが指摘し続ける必要がある」と訴え続けている。 「戦狼外交」を展開する習近平指導部に、この老華僑の魂の叫びは通じるだろうか。(初出:月刊『Hanada』2020年11月号)
著者略歴
1965年、兵庫県明石市出身。日大法学部卒。90年、産経新聞社入社。東京・大阪両本社社会部で事件、行政、皇室報道等を担当。台湾大社費留学、外信部を経て台北支局長、広島総局長などを歴任。2019年末退職。以後フリーに。日大大学院修士(国際情報)、日本記者クラブ会員、東海大学海洋学部講師、一般社団法人消防管理協会顧問、大阪日台交流協会理事長、清風情報工科学院参与。主なテーマは在日外国人や中国、台湾問題。