永田町権力闘争の舞台裏~菅政権誕生編|大下英治

永田町権力闘争の舞台裏~菅政権誕生編|大下英治

かつて中曽根政権が安定したのは、田中角栄がキングメーカーとしてスタートを切らせたからだ。菅政権も二階俊博のおかげで安定したすべり出しとなった。さらに安倍晋三が背後から支え続ける。 菅政権は、2021年9月までの短期政権どころか、長期政権の雰囲気すら漂ってくる。 


菅義偉の恐ろしいほどの能力

Getty logo

菅のすごさは、内閣官房に内閣人事局を作り、人事面から官僚を掌握したことだ。官僚を牛耳り、抑え込んだ。  

官僚たちを抑え込んできた菅の手腕がよくわかる話を、本人から聞いたことがある。  

各省にまたがる数多くの意見を聞いて、官房長官として最終決定までに一つの案件につき三つの選択肢に絞り込む。その三つを総理に報告するが、ただ選択肢を提示するだけでは、国際情勢を含め多くの判断を迫られる総理も大変だ。そこで、総理にABC案のうち「私はどの案を望ましく思う」と必ず伝えたという。  

これは大変なことだ。ただし菅長官がすべてを決めてきたという意味ではない。「この案がいい」と個人の意見を主張したのではなく、自分がよく知る安倍総理なら、きっとこの案を選ぶだろう、さらに選んだあとにどういう方向性に行くか、総理はもちろん知っているが、自分のほうがわかる部分もある。お互いの思考をブレンドして、ABCから一案を選ぶというのだ。  

あの長期政権のなかで、2人の意見が食い違ったのはたった一度だけだったという。首相と官房長官との意見が一致しなければ、内閣は絶対にうまくいかない。さらに、総理の菅への信頼感が深くなければ、いい関係は築けなかったろう。菅の恐ろしいほどの能力がうかがい知れる。

「菅さんがNOと言えば、すぐ引く。私は政治家ではない。」

新型コロナが深刻化するまでは、官邸主導は揺るがなかった。菅と今井の2人が協力して安倍総理を支えたからだ。  

今井は私の取材に、こう語っている。

「安倍さんのことを考えて菅官房長官にも自分の意見をどんどん言う。ただし、菅さんがNOと言えば、すぐ引く。私は政治家ではない。その区別をわかっているから蒸し返さない」  

菅─今井、この二人の関係がしっかりしていたから、政治主導が機能したのだ。  

2019年9月、今井総理秘書官が総理補佐官を兼務することになった。政務の総理秘書官でありながら総理補佐官まで兼任するのはいままでにない異例の人事だ。背景にはモリカケ問題があったと思う。  

森友学園問題の最初の答弁で、安倍はとっさに「私や妻が関係していたら総理も議員も辞める」と言ってしまった。  

議員まで辞めると言われて、野党は攻め方によっては首が取れるかもしれないと色めき立った。さらに加計学園問題でも野党が大騒ぎし、結果的に安倍総理のもっとも実現したかった憲法改正を狙いどおりに進めさせなかった。安倍政権の支持率は高かったが、安倍だけは絶対に認めないとする人々が常に3割程度いたからだ。  

モリカケ問題を主に処理し、安倍政権を守ったのは今井秘書官だ。妻の昭恵や親しい友人の加計理事長の問題の処理を、菅長官など政治家に頼むことはできない。将来のある身だからだ。  

その意味で、今井秘書官は安倍ファミリー的にならざるを得なかったと言える。総理がモリカケ問題で苦しいとき、菅よりも今井に傾いたのはそういう背景もあったと思う。

関連する投稿


日米に対して、中国「ゼロ回答」の背景|和田政宗

日米に対して、中国「ゼロ回答」の背景|和田政宗

日中首脳会談が約1年ぶりに開催された。岸田総理は日本の排他的経済水域(EEZ)内に設置されたブイの即時撤去等を求めたが、中国は「ゼロ回答」であった。聞く耳を持たない中国とどう向き合っていけばいいのか。(サムネイルは首相官邸HPより)


望月衣塑子記者の暴走と自壊するジャーナリズム|和田政宗

望月衣塑子記者の暴走と自壊するジャーナリズム|和田政宗

ジャニーズ事務所会見での「指名NGリスト」が騒ぎになっているが、そもそも記者会見とは何か、ジャーナリズムとは何か、それらをはき違えた人物たちにより我が国のジャーナリズムが破壊されることは、ジャーナリズム出身者としても許せない。(サムネイルはYouTubeより)


親日国パラオに伸びる中国の〝魔の手〟|和田政宗

親日国パラオに伸びる中国の〝魔の手〟|和田政宗

パラオは現在、中国による危機にさらされている。EEZ(排他的経済水域内)に海洋調査船などの中国公船が相次いで侵入しており、まさに日本の尖閣諸島周辺に近い状況となっている――。(サムネイルは筆者撮影)


仙台市議選で見えた、自民党への根強い不信感|和田政宗

仙台市議選で見えた、自民党への根強い不信感|和田政宗

今回の仙台市議選において自民党は5つの選挙区で、現職の公認候補3人が落選した。私が選挙戦を通して感じたのは、岸田内閣の政策への厳しい評価である。“サラリーマン増税”について岸田総理は否定したものの、「岸田政権では増税が続く」と考えている方がとても多かった。


今回の韓国への措置は日本の外交史上、例を見ない汚点|和田政宗

今回の韓国への措置は日本の外交史上、例を見ない汚点|和田政宗

日本外交には理念があるのかと疑問に思う事態が続いている。外交上の大チャンスを逃したり、詰めるべき点を詰めない「なあなあ外交」が行われている――。


最新の投稿


【今週のサンモニ】反原発・反核原理主義を大爆発!|藤原かずえ

【今週のサンモニ】反原発・反核原理主義を大爆発!|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。今週は原発や核兵器をめぐって、反原発・反核原理主義を大爆発させておりました。


日本防衛の要「宮古島駐屯地」の奇跡|小笠原理恵

日本防衛の要「宮古島駐屯地」の奇跡|小笠原理恵

「自衛官は泣いている」と題して、「官舎もボロボロ」(23年2月号)、「ざんねんな自衛隊〝めし〟事情」(23年3月号)、「戦闘服もボロボロ」(23年4月号)……など月刊『Hanada』に寄稿し話題を呼んだが、今回は、自衛隊の待遇改善のお手本となるケースをレポートする。


なべやかん遺産|エクシストコレクション

なべやかん遺産|エクシストコレクション

芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「エクシストコレクション」!


川勝知事のヤバすぎる「不適切発言」が止まらない!|小林一哉

川勝知事のヤバすぎる「不適切発言」が止まらない!|小林一哉

議会にかけることもなく、「三島を拠点に東アジア文化都市の発展的継承センターのようなものを置きたい」と発言。まだ決まってもいない頭の中のアイデアを「詰めの段階」として、堂々と外部に話す川勝知事の「不適切発言」はこれだけではない!


【今週のサンモニ】田中優子氏「立ち止まれ」発言の無責任|藤原かずえ

【今週のサンモニ】田中優子氏「立ち止まれ」発言の無責任|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。外交交渉の具体的アイデアを全く示すことができないコメンテーターたち。