菅新政権が本当に怖いのは、逆説的だが、当面の敵がいなくなったことだ。今回の総裁選で大きく差をつけることで、ライバル2人の存在感が薄くなった。2021年9月の総選挙で2人に代わる存在がすぐ出てくるだろうか。
以前から菅が目をかけて、将来の総理候補だと公言している河野太郎と小泉進次郎も、しばらくは菅の敵ではない。たとえば最大派閥の細田派(清和会)に限って見るだけでも、総理を狙う議員が西村康稔、稲田朋美、下村博文、萩生田光一、世耕弘成と5人もいる。しかし、いまのところ「帯に短し襷に長し」で彼らが菅のあとを狙うには時間がかかる。
菅は、目の前のライバルを叩いただけでなく、大きく差もついたため、支援してくれた派閥に頭を下げなくてもよくなった。もちろん菅政権は、派閥のバランスを抜かりなく取るだろう。この人のことだから細心の注意を払うことは間違いない。しかしそれは、派閥が推した人をそのまま入閣させることを意味しない。各派閥から改革志向の人を選んで入れるのだ。
菅はこれまで、一貫して改革を目指してきた。そこは中途半端にしないはずだ。
しかも、菅政権には菅総理より6歳も若い安倍という後見役がついている。安倍は勇退なので、菅政権の後ろ盾として存在感を発揮し続ける。河野や小泉のほかに、菅自身がさらに後継者を育ててもいい。
菅長期政権の雰囲気
かつて中曽根政権が安定したのは、角栄がキングメーカーとしてスタートを切らせたからだ。菅政権も二階のおかげで安定したすべり出しとなった。さらに安倍が背後から支え続ける。
しかも、これからの自民党のニューリーダー河野太郎と小泉進次郎の二枚看板も手のうちにある。
菅政権は、2021年9月までの短期政権どころか、長期政権の雰囲気すら漂ってくる。 (文中敬称略)(初出:月刊『Hanada』2020年11月号)
著者略歴
作家。1944年広島県広島市に生まれる。1歳のとき被爆。父を失う。苦学の末、広島大学文学部仏文学科を卒業。大宅壮一マスコミ塾第七期生。1970年、『週刊文春』特派記者いわゆる“トップ屋"として活躍。圧倒的な取材力から数々のスクープをものにする。月刊『文藝春秋』に発表した「三越の女帝・竹久みちの野望と金脈」が大反響を呼び、三越・岡田社長退陣のきっかけとなった。1983年、『週刊文春』を離れ、作家として独立。政治、経済、芸能、闇社会まで幅広いジャンルにわたり旺盛な執筆活動を続ける。『小説電通』(三一書房)でデビュー後、『実録 田中角栄と鉄の軍団』(講談社)、『美空ひばり 時代を歌う 』(新潮社)など著書は450冊以上に及ぶ。