「この人のために尽くしたい」と思わせる安倍晋三の人間力
2012年12月、二度目の総理就任が決まった当日、安倍晋三は富ヶ谷の私邸に今井尚哉を呼び、首相政務秘書官を打診した。
今井は迷わず「わかった、やりますよ」と答えた。この瞬間、今井は事務次官への道を捨てた。あくまで出身官庁からの出向である事務の秘書官と違い、政務秘書官になると、官庁は辞めざるを得ない。キャリアが断ち切られることを意味する。東大法学部を出て、事務次官になるために生きてきた官僚人生を、今井は自ら捨てた。
ここから第二次安倍政権の安定が始まったのだ。政務秘書官は内閣の要で、たとえば小泉純一郎政権が安定し、5年5カ月も持ったのも、飯島勲がいたことが大きい。 今井の次に呼んだのが菅で、官房長官を打診し、快諾を得た。2人とも、第一次安倍政権を支えきれなかった後悔の念を持っていた。第二次政権では、同じように第一次政権で悔しい思いをした人材が再結集し、全力で安倍総理を支えた。
飯島勲は言う。
「小泉のカリスマ性はすごいけど、小泉のために命をかけるという気持ちで支えた人はほとんどいなかった。どこまでも小泉が光るだけ。ところが安倍政権は、全員が安倍総理を支えたいという強い気持ちで支えている」
ここに安倍の秘密がある。
カリスマ政治家といえば、田中角栄、小泉純一郎、小沢一郎などが挙げられる。彼らには強烈な発信力があり、怖さもある。リーダーには怖さが必要だが、安倍に外見的な怖さはない。それでも大長期政権を築くことができた。安倍総理のために尽くしたいと心底思う人々が大勢いた。
しかもそれが、今井、菅、二階といったずば抜けた能力を持つ人材だったことは特筆されていい。これだけの人材を配置することができた人事は、大叔父の佐藤栄作の衣鉢を継ぐものだ。
失敗は成功のもと、失敗ほど人間を大きくするものはないというが、安倍ほどそれが当てはまる人もいないだろう。
「首相の一日」には載らない毎朝の頂上秘密会議
世間では菅の自民党総裁選立候補を、「まさか」と受け止めた人が多いようだ。また、菅政権は来年9月の(安倍総裁の本来の任期満了に伴う)総裁選までのつなぎと考える人もいるようだが、私の意見は違う。菅総理は長期安定政権を築くだろう。
安倍政権の強さは危機管理にあった。第一次安倍政権に優秀な人材は多くいたが、ばらばらで物事が決まらなかった。そこで第二次安倍政権では、官房長官と副長官の会議を毎日朝に行うことにした。「安倍日誌」には載らない秘密会議だ。
出席者は菅と、今井尚哉総理秘書官、杉田和博内閣官房副長官、衆議院と参議院の副官房長官、そして安倍総理。
人事から国会対策まで、あらゆる決断を統一して行う、第二次安倍政権の頂上秘密会議だった。