ところが、事実は全く違うところにある。皆さんは、今回の朝日新聞記事を見て、以下の質問にどう答えるだろうか。
“東電、経産省の批判をするなとマニュアルに書いてある?”
“役所の都合の悪い発言をすると係員に止められる?“
正解はこうだ。
“東電、経産省の批判をするなとマニュアルに書いてある?”→間違い。そんな記述はどこにもない。
“役所の都合の悪い発言をすると係員に止められる?“→これも間違い。そんなこともどこにも書いてない。むしろ“聴講の姿勢等が客観的に見ても不適切なものへの対応等については、伝承館スタッフが適宜フォローを行います”などと語り部が不快な思いをしたりトラブルに巻き込まれない配慮がされている。
しかし、このマニュアル原本を朝日は出していない。なぜか。出してしまえば、以前の“吉田調書事件“(福島第一原発事故についての報道において深刻な誤報を犯し、経営陣の辞任等につながった事件)と全く同じで、記事が強い偏向のもとでつくり上げられていることがバレてしまうからだ。
つまり、施設側がマニュアルを通して語り部に講演内容に含めぬよう確認しているのは
・特定の団体、個人または他施設への批判・誹謗中傷等
・教育的観点から不適切と思われる表現
・個人情報
たったこれだけの、ごく一般的なことだ。朝日新聞が期待する恣意的な要求など初めから存在していないのである。
“特定の団体”には当然、全ての政党や全ての宗教、全ての国・地域、自治体、全ての企業・組織が含まれてくる。「A政治家はよくやったがB政治家はカネ儲けだけして逃げた」「C町の住民は賠償をもらいまくっている」「D町は強欲だからE企業とF役所のコネであんなにハコモノをもらえたんだ」。ここで一例として挙げたA・B・C・D・E・F全てが“特定の団体“に該当する。
朝日新聞は「原発推進を企む東電・政権」という陰謀論を展開したいのだろうが、この「特定の団体、個人または他施設への批判・誹謗中傷等」は、東電・政権、あるいは原子力政策の評価の如何にはよらない。つまり、東電への過度な批判・誹謗中傷が控えられるべきなのと同様に、現在野党の顔役をしている原発事故当時の政権関係者への過度な批判・誹謗中傷も控えられるべきである。被災体験を聞きにくる来客に対して、特定のイデオロギーに足場を置き賛同を得ようと、特定党派や特定個人への誹謗中傷混じりになされる原発推進派のアジテーション、あるいは反原発派のアジテーション、いずれを聞かせるのもふさわしくない。
被災地で飛び交う噂話
朝日新聞記者は知らなかったのかも知れないが、被災地においては、実際に批判・誹謗中傷、あるいはそれに繋がりかねない噂話が飛び交ってきた。例えば、関東大震災後に外国人が井戸水に毒を入れたとの流言飛語が流れたことは有名だが、原発事故直後も「外国人窃盗団が避難地域に大挙してやってきて空き巣をはたらいた」という類の噂は地元では広く流布してきたところだ。空き巣が増えたのは事実だが、それが外国人だったという確証はない。しかし、一般住民の中には、その噂をそのまま信じている人間がいる。では、その話を語り部が滔々として、それが“真実”として流布してよいのか。その時、公共施設は特定の宗教、特定の国籍・民族・人種への差別を生み出す凶器となるだろう。
例えば「●●町は賠償をいっぱいもらっているから、あそこで商売している●●さんは大儲けしたって聞いている」とか「●●さんの会社は有力者の●●さんと仲が良いからあんな目立っているんだ」といった、現実に被災者と接した経験すれば聞かされるような噂話。これをそのまま出すことが無秩序に絶対的に許容されるべきという議論は極論だ。しかし、朝日新聞の理屈でいけば、この差別と憎悪を煽り立てる内容を語り部が語ることも放任されることになる。
しかし、そういった具体的かつ本質的な議論をあえて隠蔽し、読者の目を逸らすべく、その無限にある“特定の団体”の解答群からわざと政府と東電だけを抽出して“国や東電の批判NG?” “語り部から戸惑いの声があがっている。”などと印象操作したのが、今回の朝日新聞らのやり方だと言える。