中国に尻尾を振り、呑み込まれる韓国|山本光一

中国に尻尾を振り、呑み込まれる韓国|山本光一

クライブ・ハミルトン『目に見えぬ侵略』(小社刊)で中国のオーストラリア侵略計画が明らかになったが、中国の侵略はオーストラリアに留まらず世界各地で繰り広げられ、中でも韓国は、もはや中国にずっぽり呑み込まれてしまっている……。韓国語翻訳者として韓国に精通した著者が、中国の「目に見えぬ」ならぬ、露骨な「目に見える」侵略を徹底解説!(初出:月刊『Hanada』2020年10月号)


サードの話に戻る。

2016年7月、韓米は、北朝鮮の核やミサイルの脅威に対する自衛を目的に韓国にサードを配備すると発表。これに対し、中国外交部は「強い不満と決然とした反対を表す」との声明を出した。

9月、韓国国防部は、サードを星州のロッテが所有するゴルフ場に置くと発表。

12月、陳海中国外交部アジア局副局長は、韓国外交部が延期を要請したにもかかわらず、一方的に韓国に乗り込んできて、ロッテやサムスンなどの企業家らが集まった席で「小国が大国に逆らえるのか」 「サードを配備したなら、断交レベルの大きな苦痛を与える」と脅迫まがいの発言をした。

2017年2月、中国官営メディア環球時報が「ロッテが考えを変えないなら、中国を離れるべきだ」と報道。3月2日、中国国家旅遊局が北京所在の旅行会社に15日以降、韓国行きの団体観光を中止するよう口頭指示を出す。15日、韓国への団体旅行商品が販売中止になり、韓国の観光関連産業が大打撃を受ける。韓国企業の製品の不買運動も始まり、自動車、化粧品なども業績が大きく悪化した。

韓流ビジネスを対象に「限韓令」(韓流禁止令)が敷かれ、中国内で、韓国で制作されたコンテンツ、または韓国の芸能人が出演する広告などの配信が禁止される。韓中合作ドラマでヒロインを務めた韓国人俳優も突然降板させられ、CMでモデルに抜擢された韓国芸能人も予告なしに中国芸能人に交替、韓国ドラマのほとんどが放送審議を通過できなくなる。

報復は、特にサードの配備地を提供したロッテに対して凄まじく、検疫当局によってロッテの菓子が廃棄処分され、中国の民衆によるロッテに対するボイコットも起きた。中国にあったロッテマート(大型スーパー)は99店舗中87店舗が中国当局により営業を止められ、結局、18年、中国進出11年目にして、ロッテは莫大な損害を抱えて中国から撤退してしまった。

17年3月、米軍C17輸送機で烏山基地にサード発射台2基が到着し、4月26日には星州ゴルフ場にレーダーや発射台2基などの装備を搬入した。

南京大虐殺に慰謝の意を

5月、文在寅が大統領に就任する。かねてからサード配備に慎重な立場を示していた文大統領は6月、環境影響評価が完了するまでサードの本格運用を延期すると発表。だが7月、北朝鮮が弾道ミサイルを発射。これを受け、文大統領も、米軍基地内に保管中の残り四基を環境評価完了前に配備することを決断。9月、残る発射台四基を搬入した。これにより六基すべてが揃い、サードの本格運用が始まった。

サードをめぐる中国との激しい葛藤に苦しみながらも、この年の12月、文大統領はなんとか最初の訪中にこぎつけた。しかしその実現にあたっては、10月に中国側からいわゆる「三不一限」をまされた。「三不」とは、以下の三つをしないということ。

1. アメリカのミサイル防衛(MD)体制に加わらない。
2. 韓米日安保協力を三カ国軍事同盟に発展させない。
3. サードの追加配備を検討しない。

この主権侵害レベルの屈辱的な「三不合意」を受け入れて、国賓として初の訪中をした文大統領だったが、中国側の怒りは収まっていなかった。

12月13日、北京に到着した文大統領一行を迎えたのは、外交部アジア担当次官補だった。この日、習主席は「南京大虐殺」80周忌国家追悼行事に出席するために南京に行っていた(日本が南京を占領したのは1937年12月13日)。

文大統領はこの訪中で、韓国大統領としては異例なことに、「南京大虐殺」を取り上げて慰謝の意を公に伝えた。あえて、この日に訪中させる……これも訪中を認める条件だったのだろう。

中国は、文在寅に踏み絵を踏ませたのだ。「反日で中国に追従する意思」をはっきり示せと。文在寅は唯々諾々と従った。

卑屈なまでに従順な姿勢を示した文大統領だったが、中国側から厚いもてなしを受けることはなかった。3泊4日の訪中期間、計10回の食事のうち、習主席との国賓晩餐(14日)、陳敏爾重慶市党書記との昼食(16日)を除く8食に中国側からの同席者はなかった。15日に李克強首相との昼食会を行おうとしたが、実現できなかった。

中国は客の接待で食事を最も重要視している。にもかかわらず、国賓訪問をした外国首脳の「ひとり飯」の回数がこれほど多かったのは異例のことだ。

韓国人記者に暴行

記者を集団で暴行。

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