朴槿惠、天安門城楼に立つ
北京の世界戦略における第一の狙いは、アメリカの持つ同盟関係の解体である。その意味において、日本とオーストラリアは、インド太平洋地域における最高のターゲットとなる。北京は日本をアメリカから引き離すためにあらゆる手段を使っている
(『目に見えぬ侵略』クライブ・ハミルトン著、奥山真司訳、8頁)
この一節にある「日本」は、そのまま「韓国」と置き換えることができる。だが、「アメリカから引き離す」企ての進み具合、中国による浸透の程度という点で、韓国は日本より深刻だ。
韓国は戦後、長きにわたり、反共を国是として掲げ、韓米同盟を軸に北朝鮮、中国、ロシアと対峙してきた。日韓は同盟関係ではなかったが、日本も日米同盟が安保政策の柱であるため、日米韓の三国は軍事的に緊密な協力関係にあった。
しかし1992年、韓国がそれまで断絶していた中国と国交を樹立すると、徐々に変化がみられるようになる。中国の急速な経済成長の波に乗って韓国は繁栄を謳歌する。中国は韓国の最大貿易相手国となって久しい。
2019年の中国への輸出は日米を合わせた額を遥かに凌ぎ(中国:1362億1300万ドル、米国:733億4800万ドル、日本:284億1200万ドル)、中国からの輸入も日米を合わせた額と同じくらいになる(中国:1712億2000万ドル、米国:618億7200万ドル、日本:475億7500万ドル)。貿易黒字1位の国も09年以降、18年まで10年間、ずっと中国だった(2019年は香港)。
一方、中国への経済的依存が進むとともに反共の信念は揺らぎ、米韓同盟や日米韓の協力関係に影がさし始めた。その象徴的な出来事が、2015年9月に行われた中国の戦勝式典(抗日戦勝70周年を記念した軍事パレード)に韓国の朴槿惠大統領が出席したことだった。
習近平、プーチンとともに天安門城楼に立った唯一の西側の指導者、朴槿惠の姿は世界に報じられ、ワシントンからは「ブルーチーム(味方)にいるべき人がレッドチーム(敵方)にいる」と揶揄する声も出た。
日本の外交青書の韓国の項で、前年まで長く記載されていた「自由と民主主義、基本的人権等の基本的価値を共有」という表現が削除されたのも、2015年版から。皮肉なことに、日韓国交正常化50周年を迎えた節目の年だった。
以降、韓国はアメリカと中国の間で揺れ続けることになるが、サードミサイル (THAAD=高高度ミサイル防衛システム)の韓国内への配備をめぐって中国の逆鱗にふれてしまう。中国は、このシステムを構成する「Xバンドレーダー」で中国内部が丸見えになることを非常に嫌がったのだった。