中国人実業家が議員に多額の献金
本書を書くもう一つのきっかけとなったスキャンダルがありました。サム・ダスティヤリという労働党の上院議員が中国人実業家から多額の献金をもらっていたことが発覚し、大騒ぎになった事件です。
この実業家はオーストラリア在住ですが、中国共産党と密接な関係があり、その影響工作のネットワークに引き込まれたダスティヤリは、実に奇妙な行動を始めたのです。
たとえば、オーストラリア国内の中国語メディア関係者を集めて記者会見し、「オーストラリアは南シナ海の問題に首を突っ込むべきではない」と言い出したりした。これは、まさに北京が我々に言わせたがっていたことでした。
しかもこうした発言は、彼が属する労働党の方針にも反していたため、問題になりました。
中国のエージェントと化した議員
さらに火に油を注いだのは、彼の言動が問題化した数日後、件の中国人実業家であるホワン・シャンモ(黄向墨)のシドニーの豪邸に出向き、「オーストラリア政府があなたを盗聴しているかもしれないから気をつけろ」と忠告していたことを優秀な国内のジャーナリストがすっぱ抜き、発覚したのです。
これが記事になり、スキャンダルとなったため、サム・ダスティヤリはホワン・シャンモとの関係を解消せざるを得なくなり、最終的には議員を辞任しました。上院議員のダスティヤリが完全に外国のエージェントとなって、その「ボス」に「マークされているから気をつけろ」とアドバイスしていたわけですから、ひどい話です。
私がこうしたニュースを見て、とりわけ興味を持ったのが、主に3~4人の中国人もしくは中国系オーストラリア人が、オーストラリアの複数の政治家に多額の献金をしていた事実でした。しかも献金は、労働党だけでなく、ライバルの自由党(保守系)にも行われていたのです。
これは一体何なのか、そして彼らが献金で求めているものは何なのか。多額の献金の見返りとして特定の政策を要求したのではなく、ただ単に影響力を増したがっているようにしか見えない。これが、私に「本を書かなければ」と思わせた直接のきっかけです。