国会議事録より
森議員が質問のなかで「2月6日、放射線関係の研究会」といっているのは、「高エネルギー加速器研究機構 放射線科学センター」が開催した「研究会『放射線検出器とその応用』(第27回)」のことだが、「発明者」の阿部氏が元大学教授I氏とともに、この研究会にレポートを提出しているだけのことだ。
そのレポートには、こんなことが書かれている。
「もとより、放射性崩壊強度を人工的に変化させることはごく一部の特殊例を除けば常識外れである。当効果(“阿部効果”と仮称)は、第二著者:阿部により、事故後(福島原発事故のこと──引用者)、ナノ銀担持濾材のホタル生態環境保全の高い能力から、もしやホタル館周辺の放射能低減もとの発想から11年6月頃線量軽減試行過程で偶然発見された」(「ナノスケール純銀担持体の放射性セシウム減弱効果の検証測定」)
しかし、阿部氏が働いていた板橋区ホタル館は放射性物質を扱える施設ではなく、同施設で研究が行われた事実はない。
森議員は「半減期を著しく短縮させる減弱効果があった」というが、まったくのデタラメなのである。そもそも放射性物質の半減期はそれぞれの核種ごとに固有のものであり、短縮させることはできない。核分裂や核融合で一気に放射線を放出することを「半減期の短縮」と拡大解釈したとしても、それは放射線が一度に放出されることだから、「減弱効果」どころか、人体に大量の放射線被曝をもたらす危険がある──とはいえ、そんな核反応が起こるはずもなく、空想の産物でしかない。
銀には除菌や消臭に効果があることは知られているが、ナノ銀といえども核反応を起こすことは決してない。核反応を起こすには、化学反応の百万倍ものエネルギーが必要だからだ。
下村文科大臣も効果を完全否定
また、質問のなかに「下村文部科学大臣も御関心のある」とあるのは、民主党政権時代、野党議員だった自民党の下村博文代議士(板橋区選出)が地元のホタル館を訪問した際、阿部氏から「ナノ銀除染」の「実験」を見せられ、そのときの感想を自身のブログに肯定的に書いたことを指す。
「ホタル生態環境館で阿部宣男さんに話を聞く。その板橋でもホタルに奇形が生まれている。放射線の影響だそうだ。そのために、阿部さんはナノ純銀粒子による放射性物質の低減実験を行っている。環境に敏感なホタルやクロマルハナバチ再生等でカビ、病原性大腸菌、ウィルス対策としてこれまでもナノ純銀粒子(抗菌メカニズム)及び担持材を研究して10年になるが、これが放射性物質にも効果があることがわかったという」(ホタル生態環境館のホタルの奇形出現、2012年6月23日)
このブログのあと、自民党は政権に復帰。文科大臣に就任した下村氏は森議員の質問に、「私も関心のあるナノ純銀によるセシウム低減技術でございますが、日本原子力研究開発機構(JAEA)が関係の大学とともに二度にわたる試験を実施しましたが、残念ながら御指摘の効果は確認されなかったものと聞いております」と効果を否定する答弁をした。ブログ記事も削除した。
当初は大絶賛していた下村氏でさえ、否定せざるをえないインチキな「ナノ銀除染」を国会質問で大宣伝したのが森議員だったのだ。