平野氏は著書で、ナノ銀除染を福島第一原発の汚染水を浄化する「新技術」として大絶賛したうえで、「小沢氏が民主党政権から排除されなければ、この技術は放射能対策にただちに活用されたであろう」とまで述べている(『戦後政治の叡智』イースト新書 2014年2月)。
森氏は、陸山会事件での小沢氏を擁護するために『検察の罠』という著書を出しており、その続編の『日本を破壊する5つの罠』(2013年6月発行)のなかで「原発再稼働の罠」という章をたて、原発は「コストが高い」という自説を前提にして「経済合理性の低い産業にしがみついて、新たな産業創出を阻む“原子力村の住人たち”は既得権益層の典型である。 彼らを排除することこそ、真の構造改革であるはずだ」と書いている。
そして、「原子力発電はコストが安いということで推進されてきたのだが、 実は最終の処理、高レベルの廃棄物の処理についてもまったく解決策はないし、いくらかかるかもわからないぐらい膨大なコストがかかる話だし、ましてや福島の原発はまだまだまったく収束していない」という小沢一郎氏の言葉を「とつとつと語るその声のなかには、静かな憤りと、絶対にこのままなし崩しは許さない、という決意がにじんでいた」というコメントを添えて紹介している。
森氏の選挙区である新潟県は柏崎刈羽原発の再稼働問題を抱えており、原発の問題は森氏の政治命題ともいえる。この著書には、その森氏の反原発の後ろ楯となっているのは小沢氏であり、敵は既得権益に固執する“原子力村の住人たち”である、という森氏の考えがよく表れている。
虚偽に満ちた「実績」
話を「ナノ銀除染」に戻そう。“発明者”の阿部宣男氏は前述のとおり、板橋区職員という公務員だった。ホタル飼育一筋という「実績」もある。
しかし、阿部氏の「実績」は虚偽に満ちたものだ。
阿部氏は1980(昭和55)年に板橋区立こども動物園の飼育員として区職員に入職したが、2012年に出版した著書『ホタルよ、福島にふたたび』のなかで、この入職が地域で影響力があった父親のコネで実現したことを明かしている。
その後、1989(平成元)年1月に区立温室植物園に異動。同年7月からホタル飼育を担当することになったが、2014年に退職(当初は懲戒免職だったが、のちに普通退職扱いに変更された)するまで、ホタル飼育専門の区職員であった。場所は植物園からホタル館へと変わったが、25年間も異動がないのは地方公務員としては異例中の異例といえる。
これも阿部氏自身が著書で明かしていることだが、元暴走族で窃盗、暴行、恐喝などで更生施設送致という「不良ぶり」を誇らしげに自慢している。そんな人物が、希望どおりに異動なしで好きな仕事を続けられてきたことを「ホタル館は阿部専用のペット小屋だ」と他の職員は揶揄していた。
血税10億円を投入したが・・・
阿部氏はホタルについても、余所の養殖場から買ってきたホタルを「館内で飼育している」とウソをついていた。
板橋区ホタル生態環境館では毎年、ゲンジボタル、ヘイケボタル2万匹超を羽化(成虫になること)させてきた、と阿部氏は区に報告してきた。しかも1989年にゲンジの卵300個を福島県大熊町から、ヘイケの卵700個を栃木県日光市からそれぞれ導入し孵化させて以降は、いっさい他の遺伝子を他から導入しない「累代飼育」という特別な飼育法を続けてきた、と報告してきた。その予算は年間約3000万円、25年間の税金投入の総額は10億円をゆうに超える。
阿部氏のウソが発覚するきっかけは、「ホタルは持ち込まれたものだ」という密告が区にもたらされたからだ。区は1年近い内偵調査を経て、2014年1月にホタル館のホタル幼虫を捕獲する飼育数調査を実施した。
その結果、発見された幼虫はわずか2匹。発見漏れを考慮し、計算した推定数でも23匹しかホタル館内にはいないという結果になった。阿部氏の報告どおり、2万匹を羽化させるには、幼虫時には少なくとも7万匹が存在しなければならない。大量飼育の実態がないことは明らかだった。
ホタル飼育のために支出された公金の大半は、阿部氏の知人で、阿部氏の推薦でホタル館管理の業務を委託されていた観賞魚関連の業者に委託料として支払われ、一部はこの業者を通じて阿部氏の仲間の女性に手渡されていた。区は警察にも相談していたが、阿部氏本人にカネが渡った直接の証拠がつかめず、捜査は中断した。
公金横領、詐欺事件として立件されなかったが、カネを受け取った女性は現在、阿部氏とともにホタルやナノ銀関係の一般社団法人を設立し共同代表になっており、阿部氏と一心同体の関係にある(ちなみに阿部氏の知人業者は共産党員で、この事実を党中央に報告して党内調査を求めた私は、逆に党から何度も査問を受け、権利停止などの処分を受けた挙げ句に除籍され、党から追放されてしまった)。