統一朝鮮が直面する矛盾
一方、中国やロシアなどのランドパワー国家は陸軍を増強し、イデオロギーに基づく中央集権的な発想で、強力な国家権力と官僚機構による富の再分配を重視します。
強力な権力が農民たちをガッチリと管理し、分配することでさらに権威を高める。巨大な官僚機構による計画経済で国家を運営してきた中国・ロシアのランドパワー国家が、20世紀に共産主義を受容したのは当然の成り行きだったのです。
では、半島である韓国、ひいては「統一朝鮮」はどうなのか。シーパワー国家である日本やアメリカとの関係を希薄化し、ランドパワー化するのでしょうか。
ここに「統一朝鮮」が直面する矛盾が生じてきます。ランドパワー国家は歴史的に見て、必ず経済的に失敗してきました。崩壊したソビエト連邦や現在の北朝鮮がいい例でしょう。人間の理性では経済活動を完璧にコントロールすることはできませんから、北朝鮮もこのままランドパワー的発想でいる限り、崩壊の日がやってくる。
中国共産党はこの弱点を改革開放で乗り切ったかに見えますが、汚職が増え、格差が広がった。これに対する反動から、毛沢東的統制経済を継続したい習近平のグループと、改革開放を続けたい上海閥が、政権内部で熾烈な争いを展開しています。しかし米中貿易戦争で経済成長が鈍化している以上は、もはや分配すべき富も枯渇し、習近平路線は破綻するでしょう。中共は、崩壊する前に習近平を「総括」しなければならなくなるでしょう。
では、「統一朝鮮」はどうするのか。香港型の「一国二制度」によって韓国の自由主義経済を統一後も認めたうえで、そこから北が利益を吸い上げる。もちろん韓国経済は弱っていく一方ですが、シーパワー的な経済発展よりも民族の誇りを重視する文在寅政権を国民が支持し続ける以上、その方向で進むよりほかない。貧しいけれども誇り高い、朝鮮王朝の復活です。
もちろんいまの韓国にも、日米をはじめとするシーパワー、自由主義的な価値観で国家の発展を維持しようとする親米派がまだいます。しかし「事大主義」の誘惑に乗り、アメリカを凌ぐ大国になるかに見えた中国に接近したことで、アメリカの信頼を裏切ってしまいました。
日本との関係でも、「昼は反日、夜は親日」という隠れ親日派が少なからずいました。しかし結局は、親北派文在寅政権の成立で、シーパワー勢力との連携を模索する人々は政権からパージされてしまいました。
これは、かつて19世紀の朝鮮でも起きたことです。日本と組んで近代化を図ろうとした金玉均ら「開化派」が、政権によって粛清されました。彼らを支援するため、日本は日清・日露戦争に踏み切り、その結果として満州進出を図り、朝鮮半島や満州に莫大な投資をした挙句、敗戦ですべてを失い、感謝もされず、謝罪と反省を求められていまに至るのです。
大日本帝国に代わって韓国防衛を引き受けた米国は、朝鮮戦争期に日本を兵站として利用しました。日米は足並みを揃えて韓国の経済を支え続け、ニクソン訪中後は中国に対してさえ過剰に肩入れして、投資を行ってきました。
もし韓国や中国に対する政府開発援助(ODA)を日本国内に回していたら、「失われた30年」どころか、平成を通じて浮上することのなかった日本経済は、いまとは全く異なった状況になっていたでしょう。
大陸国家への過剰な関与が地政学的に致命的な間違いだったことを、まず誰よりも日本人が学習する必要があると思います。
地政学的観点と過去の歴史に学べば、日本は「統一朝鮮」の成立に関与せず、静観するべきでしょう。シーパワーたる日本は、むしろ台湾・東南アジア・豪州と連携すべきなのです。韓国に対しては、筑波大学名誉教授の古田博司さんが「助けるな、教えるな、かかわるな」という「非韓三原則」を唱えていらっしゃいますが、全く同感です。