米は「統一朝鮮」を容認する
韓国には、これまでも「統一朝鮮」を夢見た政権がありました。たとえば金大中は南北会談でノーベル平和賞を受賞、太陽政策を続けてきました。しかし、それでも統一がならなかったのは、常にアメリカが妨害してきたからです。
韓国の赤化、あるいは統一への動きがわかると、これまでのアメリカは即座に韓国に手を突っ込み、親米派を支えてきました。朴正煕による軍事クーデターなどは、まさにその典型でした。
今回も、本来ならアメリカが韓国の親米派軍部のクーデターを支援してもいいはずです。が、このような動きが今回見られないのは、アメリカのトップがトランプ大統領だからです。
トランプは大統領選の時点で、「在韓米軍を退く」という大戦略を明確にしていました。在韓米軍基地を縮小し、韓国を守るためにアメリカのリソースを費やしたくない「アメリカ・ファースト」のトランプと、民族統一の夢を追う文在寅の「朝鮮民族ファースト」は、奇妙な一致を見せているというわけです。
仮に2020年の選挙でトランプが敗けても、この方向性は変わらないでしょう。実はトランプだけではなく、アメリカ議会は民主党も共和党も、在韓米軍縮小の方向に動いているからです。
現在のアメリカの世界戦略にとって大事なのは、対北朝鮮・朝鮮半島情勢ではなく対中戦略です。その点で考えれば、在韓米軍基地を継続するよりも、台湾に基地を置くほうがいい。アメリカにとって、「反米・統一」に傾く韓国を防衛しなければならない理由はほぼなくなっているのです。アメリカは「統一朝鮮」を容認し、核保有すら黙認するでしょう。
さて、米軍の撤収後、核を持った「統一朝鮮」が中国につけば脅威になるのでは、という疑問を持つ方もいるかもしれません。
しかし、これは全くの誤解です。韓国の「事大」を中国に向けるのは保守派であり、親北派はチュチェ思想に基づき、外国勢力の力を借りない民族独立を志向しているからです。これは日・米だけではなく、中国に対しても同様。支配や干渉など、まっぴらごめんという立場なのです。
北朝鮮は朝鮮戦争で中国軍の支援を受けましたが、戦後は中国軍基地を置かせず、独自路線に転じました。とりわけ、金正恩体制になってから「脱中国」を加速させています。象徴的なのが、中国とのパイプ役といわれてきた叔父・張成沢の処刑、そして中国のエージェントだった実兄・金正男の暗殺です。これによって金正恩は実質的に、中国との紐帯を切ったのです。
ですから、「少なくとも北朝鮮は中国の傀儡であり、一蓮托生である」と考えるのは間違いなのです。
先祖返りする朝鮮半島
歴史的に見ても、朝鮮半島は中国大陸の政権に対しては面従腹背、つまり表では頭を下げていても、「いつか見てろよ」という気持ちを中国に対して持ち続けてきました。
朝鮮半島で最も長く続いた王朝は「李氏」朝鮮王朝で500年。李氏朝鮮は明の制度を全面的に取り入れ、中華思想のイデオロギーである朱子学を官学とすることでリアリズムを捨てました。明の崩壊後、李氏朝鮮は清に表面的には服属しながらも、実は面従腹背して清を内心見下し、「明の継承者はわが朝鮮なり」との小中華思想を持ち続けたのです。
この長期の間に染み付いた思考パターンは、国民性として骨の髄まで染み込んでおり、そう簡単に抜けるものではありません。まるで形状記憶シャツのように元に戻る、つまり「あの頃の朝鮮半島」に戻りたいと考える。分かりやすく言えば、いまの朝鮮半島は「先祖返り」しようとしているわけです。
アメリカはおそらくこのことをよくよく理解したうえで、「統一朝鮮」をむしろ中国の防波堤にしようと考えています。そのため、アメリカ本土には届かず、北京や上海には届く程度の核ミサイルの保持を、アメリカは許すことになるのです。
もちろん中国側は朝鮮半島、特に北朝鮮を自分の駒として使うためにたびたび介入してきました。しかし、張成沢処刑と金正男の暗殺によって金正恩は中国に「三行半」を突き付け、「核を持った以上、中国には従わない」という姿勢を明確にしています。トランプはこれを見て、「金正恩は使える」と思ったに違いありません。
だからこそトランプは、文在寅の頭ごしに金正恩との交渉を進めているのです。2019年6月にも、大阪G20の帰りに電撃的に板門店を訪問したトランプは金正恩とのトップ会談に臨み、文在寅は一歩下がって米朝会談を眺めるしかない立場に置かれました。金正恩から見れば、文在寅は自分に忠誠を誓うべき「労働党員」の一人に過ぎず、対等な交渉相手とは見ていないのです。
このような読み解きは、「地政学」によって裏付けられます。
日本では戦後、「地政学」は侵略につながる危険思想とみなされてきました。しかし各国首脳が地政学的観点から国家戦略を考えている以上、世界史を語るにも「地政学」的観点がなければ真の意味で理解することはできません。
日本は典型的な島国、海洋国家であり、自由貿易や経済合理性を重んじるシーパワー国家です。にもかかわらず、戦前は朝鮮半島の併合、中国大陸への進出というランドパワー的な方向へ進み、同じシーパワー国家である米英と戦争を始めてしまったところが大きな間違いでした。