市民を公的外交官として活用するという考えは、何もVANK特有のものではない。イスラエル政府の「ピアツーピア外交」プログラムもその一つで、ディアスポラ(パレスチナ以外の地に移り住んだユダヤ人)を教育し、活用することで、イスラエルに友好的な外国人を作り出す活動に力を入れるなど、市民を公的外交官として活用している国は珍しくない。
ただ、韓国政府のように執拗に、異常なまでの反日が今日まで継続している国は世界に類を見ない。韓国政府の裏にVANKの存在があることは紛れもない事実だ。VANKの存在がある以上、韓国政府の姿勢は変わらない。
こうしたインフルエンス・オペレーションの脅威は外交面だけではない。2016年のロシアの米国大統領選挙への干渉に見られるように、SNSを使って国内世論を誘導したり、動画でフェイクニュースを流すといったことが今後、ますます盛んになる。
先に紹介したロシアのIRA社の場合は、米国で不正に入手した社会保障番号や誕生日の情報を使い、ネット決済サービス「ペイパル」のアカウントを取得し、実在する赤の他人になりすまし、SNSでフェイクニュースを拡散させたり、ソーシャルメディアで政治広告をアップしていた。
日本は脆弱すぎる
わが国の政府が行っている電子政府の総合窓口(e-Gov:各府省がインターネットを通じて提供する行政情報の総合的な検索・案内サービスの提供、各府省に対するオンライン申請・届出等の手続の窓口サービスの提供を行う行政のポータルサイト)を利用したパブリックコメント(行政手続法に基づく意見公募手続)の受付一つとっても、コメントする側の国籍すら確認されていない現状では、そのパブリックコメントの集計結果も今後は疑ってかかる必要がある。
インフルエンス・オペレーションの脅威がますます高まりつつあるなかで、わが国の対策はあまりにも脆弱と言わざるを得ない。
1955年、大阪府生まれ。情報安全保障研究所首席研究員。元会津大学特任教授。78年、神戸大学海事科学部卒業。損害保険会社を経て、83年に米国際監査会社プライスウォーターハウス公認会計士共同事務所入所、システム監査部マネジャーとして大手ITメーカーや大手通信キャリアのセキュリティー監査を担当する。以来、複数のシステムコンサルティング会社、セキュリティーコンサルティング会社で現場経験を積む。2016年度より現職。リサーチ活動においては、「自分の目で事実確認」することを信条に、当事者や関係者に直接取材。著書に『情報立国・日本の戦争』(角川新書)。