世界に通用する人材を
現在、獣医師を目指して獣医学部や学科への進学を希望する学生たちの動機には、「可愛い犬や猫が好きで、ペットの診療をやりたい」という者が多く、現在の教育体制も、教員を中心に小動物診療に偏ってしまっています。
しかし獣医師という仕事は、「動物が可愛いから」 「好きだから」という動機だけで貫徹できるものではありません。なかには、生理学や解剖学の実習になると顔を真っ青にして、「動物を救いたくてこの学問の道には入ったのに、動物を殺すのか」と言い出す学生もいます。「動物実験には反対だ」と実習を拒否する学生もいる。
しかし、これは教育のなかである程度克服できるものだと思います。教員側の姿勢次第で、学生の考え方も変化するのではないでしょうか。
岡山理科大学獣医学部は幸いなことに、高い倍率を突破して140人の優秀な学生が入学してくれることになりました。悪い噂に負けずにこの学校を選んだ学生たちが、産業動物臨床、公衆衛生、ライフサイエンス分野だけでなく、テロ対策に繫がるバイオセキュリティー分野においても、世界で通用する獣医師や研究者に育ってくれることを祈るばかりです。
(月刊『Hanada』2018年5月号より)
著者略歴
東京大学名誉教授・公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長。1964年、東京大学農学部獣医学科卒業。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て、東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを務めた。2008~11年、日本学術会議副会長。11~13年、倉敷芸術科学大学学長。著書に『不安の構造―リスクを管理する方法』(エネルギーフォーラム新書)、『牛肉安全宣言―BSE問題は終わった』(PHP研究所)などがある。