故人を一方的に批判、断罪
元731部隊の引揚者のなかには、「非人道的な行為などなかった」と証言している者もいる。その一人、かつて同部隊の研究者であった吉村寿人はこう述べている。
「私は軍隊内において凍傷や凍死から兵隊をいかにして守るかについて、部隊長の命令に従って研究したのであって、決して良心を失った悪魔になったわけではない」
同番組では、この吉村の発言を極めて批判的に紹介している。
さらに、731部隊出身の戸田正三(戦後、金沢大学学長)や田部井和(戦後、京都大学教授)に関しても、「戦後、口を噤んだ」という一言をもって断罪している。しかし、すでに鬼籍に入り、反論できない立場にある故人に対して、一方的に批判する手法もフェアでない。
彼らにも主張や意見はあったはずだ。それを「口を噤んだ」という一語で簡単に片付けるのはいかがなものか。戦後社会が「731部隊=悪魔の部隊」のごとき言説に一挙に染まっていくなかで、彼らに反論できる状況など実質的になかったという一面もしっかり考慮すべきではないか。
ちなみに、日本政府は2003年に小泉内閣が731部隊に関する答弁を閣議決定しているが、その内容は、 「外務省、防衛庁等の文書において、関東軍防疫給水部等が細菌戦を行ったことを示す資料は、現時点まで確認されていない」
というものである。この点についても、同番組では全く触れられない。
ドキュメンタリー番組として真に相応しい態度と言えるのか
元NHKアナウンサーの和田政宗参議院議員も番組に対して疑問の声をあげている。
様々な見方や主張があるなかで、「非人道的な行為」を認めた者たちの証言のみを取捨選択して紹介する姿勢は、ドキュメンタリー番組として真に相応しい態度と言えるのだろうか。しかも、その新資料だという「証言」は、諸般にわたり差し引いて考えるべき要素を含む代物なのである。
なぜ、多様な主張を対等に並べるような構成にしなかったのか。複眼的な見地を遺漏なく示せば、ドキュメンタリーとしての健全な奥行きも生まれたはずである。そうしないのであれば、公正さを欠いた内容だと感じる視聴者が出ても当然であろう。