史実を殺す過剰な演出
NHK公式ツイッターより
また、同番組では「生きたまま実験材料とされ亡くなった人は、3000人にのぼるとも言われています」というナレーションが使用されている。この数字は、はたして実証性のあるものと言えるのだろうか。たしかに「3000人が虐殺された」と主張する研究者は見られるが、この数字は歴史学のなかで定説となっているものでもない。いまだ議論の続いている数字である。
731部隊に関しては、信頼性の高い史料が乏しく、様々な論争がいまも続いている。そんななかで、番組制作側はどのような調査、あるいは基準によって、このようなナレーションとしたのか。
また、もう一つ私が疑問に感じたのが、随所でおどろおどろしい音楽が流れる点である。このような過剰な演出は、ドキュメンタリーを名乗る番組として相応しくない。近年では同番組だけでなく、このような演出を多用するドキュメンタリー番組が非常に増えている。私はこの点に関し、強い危惧を抱いている。過剰な演出は史実を殺す。
「結論ありき」の構成
さらに、番組中にイメージカットとして「複数の蟻が虫の死骸を懸命に巣に運び込もうとする映像」が使われる。蟻が731部隊の日本人、虫の死骸が中国人(あるいはロシア人)の遺体をイメージしていることは明らかである。こうした安易な演出は不必要なばかりか、視聴者の潜在意識に誤解を生じさせる。
この番組が、多くの時間と労力をかけて作られていることは間違いない。軍からの研究費を見返りとして、東京大学などが多くの優秀な人材を同部隊に送り込んでいたという指摘などはなかなか興味深かった。だからこそ、「結論ありき」の構成になっているように見受けられた点が残念でならない。