中国外務省が大絶賛したNHKスペシャル「731部隊の真実」に重大疑問|早坂隆

中国外務省が大絶賛したNHKスペシャル「731部隊の真実」に重大疑問|早坂隆

史実を殺す過剰な演出、故人を一方的に批判し断罪、結論ありきの構成。「NHKスペシャル 731部隊の真実~エリート医学者と人体実験」はあまりにも問題が多すぎる。NHKは膨大な予算(受信料)をかけて「中国を喜ばせるプロパガンダ番組」を制作しているのではないか。


731部隊とは何か

「NHKスペシャル 731部隊の真実」より

2017年夏の8月13日、「NHKスペシャル 731部隊の真実~エリート医学者と人体実験」という番組が放送された。NHKのホームページによれば、「数百点にのぼる資料をもとに、731部隊設立の謎に迫る」とのことであったが、番組を見て私が感じたいくつかの疑問点などを以下に示したい。  

まずは、731部隊の概略について簡単に触れておこう。  

731部隊とは、大東亜戦争末期に存在した日本の研究機関の一つである。正式名称は「関東軍防疫給水部本部」という。この機関の通称号(秘匿名称)が「満州第七三一部隊」であったことから、戦後に「731部隊」の名で広く定着するようになった。  

部隊があったのは、満州のハルビン郊外の平房という地である。昭和20年の時点で、同部隊には3000人以上もの人員が所属していた。規模としては、かなり大きな組織だったと言える。  

彼らの主要な任務は、兵士の感染症予防や、衛生的な給水体制の確立を研究することであった。ノモンハン事件の際には、的確な給水支援や衛生指導により、多くの人命を救ったとされる。  

これらの任務と並行して進められていたのが、細菌戦などを意識した生物兵器に関する研究であった。日本は生物兵器や化学兵器の使用を禁ずるジュネーヴ議定書を批准していなかった。ただし、同議定書を批准した多くの国々が、秘密裏に様々な兵器の研究を進めていたのも事実である。  

そんな731部隊の実態については戦後、様々な論争が繰り返されてきた。主な論点となったのは、「人体実験が行われていたのか」 「生物兵器を実戦で使用したのか」といった部分である。  

はじめに示しておくが、私は731部隊に関して「人体実験や細菌実験が全くなかった」と断定する者ではない。しかし同時に、現在の中国側が一方的に主張している内容については、史実を逸脱した側面がかなり含まれていると考えている。中国が国家主導で展開するプロパガンダ戦略のなかで、731部隊の存在が恣意的に利用されている現状があることは否定しがたい。

ハバロフスク裁判の肉声

「昭和史のタブー」とも称される731部隊であるが、この問題について「新資料」からのアプローチを試みたのが同番組である。では一体、それはどのような内容であったのか。  

この番組の骨格をなしているのが、「ハバロフスク裁判の音声記録」である。同裁判における法廷でのやりとりを録音した磁気テープが、モスクワの「ロシア国立音声記録アーカイブ」で新たに発見されたというところから、この番組は始まる。  

731部隊に所属していた人々の多くは、ソ連軍の満州侵攻によって捕虜となり、シベリアに強制連行された。いわゆる「シベリア抑留」である。  

その後、彼らは通称「ハバロフスク裁判」によって、戦争犯罪人として訴追されることになる。裁判の期間は1949年12月25日から30日までの6日間。戦勝国であるソ連が主導した軍事裁判である。この法廷では、日本のソ連に対する軍事行動が幅広く断罪の対象となったが、そのなかで731部隊も扱われたのであった。  

今回、モスクワで見つかったというこの磁気テープには、731部隊や関東軍の幹部であった者たちの証言がたしかに録音されている。これまで同裁判の詳細は不明な点が多かったから、その内容が判明したという意味において、この発見が貴重なものであることは間違いない。  

音声記録のなかにあったのは、「びらんガスを人体実験に使用した」 「乳飲み子のいるロシア人女性を細菌に感染させた」 「中国の軍隊に対して細菌武器を使用した」といった肉声の数々であった。

問題となるのは、その内容をどう解釈するかである。

関連する投稿


青山繁晴さんの推薦人確保、あと「もう一息」だった|和田政宗

青山繁晴さんの推薦人確保、あと「もう一息」だった|和田政宗

8月23日、青山繁晴さんは総裁選に向けた記者会見を行った。最初に立候補を表明した小林鷹之さんに次ぐ2番目の表明だったが、想定外のことが起きた。NHKなど主要メディアのいくつかが、立候補表明者として青山さんを扱わなかったのである――。(サムネイルは「青山繁晴チャンネル・ぼくらの国会」より)


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


NHK朝ドラ『虎に翼』、「婚姻は、双方の合意のみ」は歴史の捏造に近い|和田政宗

NHK朝ドラ『虎に翼』、「婚姻は、双方の合意のみ」は歴史の捏造に近い|和田政宗

6月4日放送のNHKの朝の連続テレビ小説『虎に翼』における、昭和22(1947)年の民法改正についてのナレーションが物議を醸している――。NHKはなぜ婚姻は「両性の合意」ではなく「双方の合意」とナレーションをしたのか。


習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

すぐ隣の国でこれほどの非道が今もなお行なわれているのに、なぜ日本のメディアは全く報じず、政府・外務省も沈黙を貫くのか。公約を簡単に反故にした岸田総理に問う!


中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

頼清徳新総統の演説は極めて温和で理知的な内容であったが、5月23日、中国による台湾周辺海域全域での軍事演習開始により、事態は一気に緊迫し始めた――。


最新の投稿


【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。