番組を中国外務省が絶賛
そんななか、今回のNHKの番組は今後、どのような変化を生んでいくのだろうか。この番組の放送後、中国外務省は時を置かずして以下のようなコメントを出した。
「日本の731部隊が罪を認める20時間を超える録音を掘り起こし、中国侵略戦争で同部隊の犯した凶悪犯罪を完全に復元した」 「第2次世界大戦中、日本の侵略軍は中国人に対して極悪の細菌戦を発動し、残酷で非人道的な人体実験を行い、反人類的な極悪犯罪を行った。一連の史実は動かしがたいものであり、否定できない」
中国側としては、 『当の日本の公共放送がそう言っているのだから』
といったところであろう。日本からの「お墨付き」を手に入れた形である。
これは南京戦や慰安婦に関する論争の構図とよく似ている。歴史を宣伝戦に利用している中国としては、今回の番組は「渡りに船」であったに違いない。
ハルビン郊外の展示館は今後、さらなる拡張を目指していく方針だという。今回の番組内容に乗じる形で、展示をより強化していくに違いない。
日本としてはあくまでも史実を丁寧に検証したうえで、認めるべきは認めつつも、反論すべき点は毅然と反論しなければならない。そういった意味において、今回のNHKの番組には、所々で精度を欠いた印象を受けた。より冷静で多角的な研究が求められる。(初出:月刊『Hanada』2018年4月号)
1973年、愛知県生まれ。ノンフィクション作家。大磯町立図書館協議会委員長。主な著作に『ペリリュー玉砕』『指揮官の決断 満州とアッツの将軍 樋口季一郎』『永田鉄山 昭和陸軍「運命の男」』(いずれも文春新書)など。『昭和十七年の夏 幻の甲子園』(文藝春秋)でミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。【公式ツイッター】https://twitter.com/dig_nonfiction