文在寅新年記者会見は日本への”挑戦状”|名村隆寛

文在寅新年記者会見は日本への”挑戦状”|名村隆寛

日韓関係が、年を越して悪化の度を一層増している。その最大の原因は、韓国の文在寅大統領が1月10日に行った「新年の記者会見」での日本に対する発言だ。


新年の記者会見があった日、韓国の李洛淵首相は国政懸案点検調整会議で「歴史だけにとらわれ、未来の準備を疎かにしてもならない」としたうえで、「韓日両国が歴史の負の遺産を解決しつつ、未来志向の関係を構築することに知恵を集め、努力することを望む」と語った。

徴用工訴訟での韓国最高裁の確定判決に反発を強める日本に対し、韓国政府きっての「知日派」であり、事実上、責任対応を丸投げされているといってもいい李洛淵首相までが「韓国政府は最大限自制し、悩み、努力している」として、「日本政府もともに自制し、韓日関係の望ましい未来のため、賢明に対処することを望む」と述べた。

一方で、「かつては韓国が国内の政治的な目的で国民の反日感情を刺激しているとの批判的な見方が日本にあった。だが、最近は日本の指導者らが国内の政治的な目的で国民の反韓感情を刺激し、利用しようとしているとの見方が韓国にある」と安倍首相を暗に批判。「この事実を日本の指導者たちは分かってほしい」と語った。

結局は文在寅発言の踏襲だ。

李洛淵首相は12日にソウルにある抗日独立運動家の墓地を訪れた際も、「歴史の事実の前に日本は謙虚であるべきだ」と述べている。

また、韓国の韓日議員連盟の国会議員11人が、関係の改善策を模索するため、文在寅発言の翌11日に訪日し、日韓議員連盟の額賀志郎会長らと東京で会談した。

与党「共に民主党」の議員である韓日議連の姜昌一会長もこの場で、「韓国最高裁の判決を韓国政府は尊重するのみで、日本政府も判決を尊重すべきだ」と伝えた。また、「日本との関係も非常に重要だ。韓国政府はいかに困難を克服するか悩んでいる。韓日が知恵を集め、困難を乗り越えていこう」と協力を呼びかけたという。

こちらも文在寅発言に沿ったものだが、韓国政府の立場に理解を求めており、日本に対する懇願に近いものが感じられる

本質は慰安婦問題と同じ

ここで、いわゆる徴用工問題に対する文在寅政権の見方を精査してみたい。文在寅大統領は徴用工問題を「韓日基本条約で解決されておらず、韓国政府のせいではなく、日本による朝鮮半島統治という歴史のため作られた問題」と定義した。「日本政府の朝鮮半島に対する植民地支配に不法性がある」とし、日本企業に賠償命令を下した韓国最高裁の立場と同じだ。

つまり、韓国最高裁判断を尊重するという文在寅大統領も、日本による朝鮮半島統治を「不法」とみなしているわけだ。

さらに文在寅大統領は、「韓国の司法府が韓日基本条約では解決されていないと判断した問題」であるとし、李洛淵首相に昨年10月末に問題への対応策を指示するなど、韓国側が努力していることを指摘し、「問題について韓日両国がいかに解決するか真摯に知恵を合わせねばならない」と訴えている。

よく似た言葉を、1年あまり前に文在寅大統領から聞いた覚えがある。慰安婦問題をめぐる2015年12月の日韓合意の検証結果だ。くしくもと言おうか、必然的にもと言おうか、文在寅大統領は昨年1月の新年の記者会見で次のように語った。

「両国が公式に合意した事実は否定できない。だが、誤った問題は解決せねばならない」

この発言を前に、韓国政府は文在寅大統領の命で日韓合意を約5カ月間、検証し、検証の結果、文在寅大統領は「問題が解決できないことを改めて明確にする」と強調した。ただし、日本との合意の再交渉を否定しつつも、文在寅大統領はこの時、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を日韓両政府が確認した合意の根本を否定した。

「日本との合意があったことは否定せず、合意の破棄はしない。しかし、問題は解決していない。でも、日本とは未来志向的な関係を望む。だから日本は問題解決に向けて、ともに知恵を出してほしい」

この主張、言いぐさは徴用工問題をめぐる今年の発言と根本的に同じである。文在寅大統領はまた、「日本が心から謝罪し、被害者(元慰安婦)らが許すことができたら完全な解決だと思う」と日本側の対処に期待したが、徴用工問題について語ったなかにも、似たような発言があった。

さんざん理由付け(言い訳)をして問題は終わっていないと言い張り、日本に責任を転嫁し、善処を期待する。文在寅大統領に限ったことではなく、他の歴代政権が日本に対してやってきたことだ。

文在寅
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「ともに」というくせ者

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