文在寅新年記者会見は日本への”挑戦状”|名村隆寛

文在寅新年記者会見は日本への”挑戦状”|名村隆寛

日韓関係が、年を越して悪化の度を一層増している。その最大の原因は、韓国の文在寅大統領が1月10日に行った「新年の記者会見」での日本に対する発言だ。


問題の記者会見に出席

文在寅

日韓関係が、年を越して悪化の度を一層増している。その最大の原因は、韓国の文在寅大統領が1月10日に行った「新年の記者会見」での日本に対する発言だ。

文在寅大統領は・歴史カード・を前面に出し、新年早々、日本に挑戦状をたたきつけた。

問題の記者会見には筆者も出席していた。会見の状況を振り返ってみたい。

記者会見は韓国大統領府の迎賓館で行われた。開始は午前10時だったが、ちょっとしたサプライズのつもりだったのだろうか、文在寅大統領は冒頭の国民に向けた演説を昨年のように記者団の前ではせず、建物の玄関付近で行った。

車で乗り付ける場面から、記者会見場の大型テレビモニターで映された演説は30分足らず。そのうち約25分を経済や国民の暮らしに充てた。低迷が続く韓国経済の実態や国民の不満を大統領自身が痛感していることがうかがえ、経済や国民生活の向上に向けた政府の政策への理解をしきりに訴えていた。

演説後、記者会見場に移った文在寅大統領は終始笑顔。会見は挙手した記者から、文在寅大統領が自由に選ぶかたちで進められた。韓国メディアの質問の合間に外国メディアにも質問の機会が与えられたが、指名されるのはいずれも欧米や中国メディアばかり。筆者も含め、日本のメディアも挙手を続けたが、一向に指名してくれない。「日韓関係への言及が全くない。このままではまずい」と内心焦りつつ、中腰にまでなってとにかく手を挙げ続けた。

ご満悦で会場をあとに

約90分の会見の終盤になり、ようやくNHKの記者が質問できることになる。

質問は、いわゆる元徴用工問題をめぐって韓国最高裁が日本企業に賠償を命じた問題についてだった。文氏は笑顔を絶やさずに質問に耳を傾けたあと、「日本政府がもう少し謙虚にならねばならない」 「日本の政治指導者らが政治争点化し、問題を拡散させているのは賢明ではないと思う」などと語り、暗に安倍晋三首相らを批判した。

文在寅大統領は質問に答えたあと、こうも付け加えた。「実は、あなたの後ろの記者を指名したんですけどね」。会見場では笑いが起きた。

記者会見は当初の予定より10分ほどオーバー。それでも挙手を続ける記者団に、文氏は「もう無理です」と疲れた表情を見せ、再び会見場の笑いを誘った。会場をあとにする文在寅大統領は笑みをたたえ、ご満悦の様子だった。

筆者と同じように手を挙げ続けた日本人記者と会見後に話したが、彼も「どうにか日韓関係について大統領に口を開いてもらわねば」との心境だったという。

日本の記者からの質問を会見前から拒否した2014年の朴槿惠前大統領による新年の記者会見ほどひどいものではなかったが、問題はその発言内容だ。「日韓関係の現状を分かっているのか」と率直に感じた。

発言を要約する。

「過去、韓日の間には35年ほどの不幸な歴史があった。この歴史のため、新たに外交関係を樹立する際、韓日基本条約を締結したが、全て解決されていないとされる問題がいまも続いている。これは韓国政府が作り出したのではなく、過去の不幸な長い歴史のため作られた問題だ」

「日本政府がこれについて、もう少し謙虚な立場であらねばならないと思う。韓国政府は、問題は問題として両国が知恵を合わせ解決し、未来志向の関係を損なわないようにしようと言ってきた。日本の政治指導者らが、こうした問題をたびたび政治争点化し非難材料とし、問題を拡散させていることは賢明ではない」

「韓国最高裁の判決について、日本も韓国も、世界のあらゆる文明的な先進国も三権分立に基づき、司法府の判決に政府が関与することはできず、司法判断を尊重せねばならない。日本も同じだろう。日本が韓国の判決に不満を示すことはできる。だが、日本も不満があっても、やむを得ないという認識を持ってくれねばならない」

「韓日がいかに知恵を合わせて問題を解決するか。韓国の司法府が韓日基本条約では解決されていないと判断した問題について、被害者の苦痛を癒やす問題について、韓日両国がどのように解決するか真摯に知恵を合わせていかねばならない。政治的な攻防の材料にし、未来志向の関係を損ねるのは望ましくない」

関連する投稿


慰安婦問題を糾弾する「日韓共同シンポジウム」の衝撃(東京開催)|松木國俊

慰安婦問題を糾弾する「日韓共同シンポジウム」の衝撃(東京開催)|松木國俊

日米韓の慰安婦問題研究者が東京に大集合。日本国の名誉と共に東アジアの安全保障にかかわる極めて重大なテーマ、慰安婦問題の完全解決に至る道筋を多角的に明らかにする!シンポジウムの模様を登壇者の一人である松木國俊氏が完全レポート、一挙大公開。これを読めば慰安婦の真実が全て分かる!


「核爆弾の奴隷たち」北朝鮮驚愕の核兵器開発現場|石井英俊

「核爆弾の奴隷たち」北朝鮮驚愕の核兵器開発現場|石井英俊

「核爆弾の奴隷たち」――アメリカに本部を置く北朝鮮人権委員会が発表した報告書に記された衝撃的な内容。アメリカや韓国では話題になっているが、日本ではなぜか全く知られていない。核開発を進める独裁国家で実施されている「現代の奴隷制度」の実態。


「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

トランプ前大統領の〝盟友〟、安倍晋三元総理大臣はもういない。「トランプ大統領復帰」で日本は、東アジアは、ウクライナは、中東は、どうなるのか?


【読書亡羊】「K兵器」こと韓国製武器はなぜ売れるのか 伊藤弘太郎『韓国の国防政策』(勁草書房)

【読書亡羊】「K兵器」こと韓国製武器はなぜ売れるのか 伊藤弘太郎『韓国の国防政策』(勁草書房)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


韓国大統領・尹錫悦の犯罪、保守派は幻想を捨てよ|邉熙宰(ピョンヒジェ)

韓国大統領・尹錫悦の犯罪、保守派は幻想を捨てよ|邉熙宰(ピョンヒジェ)

尹錫悦に騙されてはならない!文在寅政権下で検察総長を務めた男が過去に行った国家を揺るがす驚くべき犯罪。尹錫悦の「親日政策」は完全な偽物だ!韓国メディアウォッチの邉熙宰氏が緊急警告。


最新の投稿


【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。