新聞はあと5年でさらに1000万部減少する|下山進

新聞はあと5年でさらに1000万部減少する|下山進

タイトルは『2050年のメディア』だが未来を予想したものではなく現在ただいまの一冊。いまや誰もが当たり前のように使っているヤフーがどのように生まれ、ニュースのプラットフォームとして成長したのか、その一方でかつてのメディアの雄・新聞の地位が何故下がっていったのか……インターネット以降のメディアの内幕を描く本格ノンフィクション。著者は花田紀凱編集長の『週刊文春』時代の部下だった下山進氏。編集長が傑作と評する本書について直撃インタビュー!


ヤフーが読売を狙った理由

──ヤフーは設立当初、共同通信から配信を受けようとした。話は進んで契約までいったのに、いざ配信を始めたその日に、共同通信から「やめてくれ、なかったことにしてくれ」と連絡が来た。

下山 共同通信がブロック紙や地方紙に配信している記事をネットで出してしまえば、新聞が読まれなくなってしまう。共同の加盟紙から猛烈な抗議があったんです。

──次にヤフーが狙ったのは読売新聞。なぜ読売だったのでしょう? たしかに部数は読売が一番ですけど、「新聞界の代表」といえば朝日新聞というのが多くの人の認識だよね。

下山 一番大きな理由は、読売新聞のニュースサイト「ヨミウリ・オンライン」が速報に強かったことなんです。当時、ヤフーは毎日新聞からニュースの提供を受けていましたが、毎日はリアルタイムでニュースを送ってくれるのではなく、紙の新聞が校了した時間にまとめてドサッと来る。さらに、朝刊が配られる時間帯以降でなければ配信してはいけない、といった縛りがあった。それではネットでやる意味がない。

読売は2000年に、編集局と「ヨミウリ・オンライン」を運営するメディア戦略局の間に「ニュース配信センター」という部署を設け、ネットの速報用に記者が記事を書いて、配信センターを通じてメディア戦略局に送っていたんです。

──渡邉恒雄主筆は紙にこだわっているのに、「ヨミウリ・オンライン」をスタートして、しかも速報の体制をとるというのはおもしろい。

下山 渡邉さんは2000年には、ネットなんて歯牙にもかけなかったでしょう。関心もなかった。読売の2001年の紙のABC部数は、1028万部を誇っていましたから。

ヤフーの井上さんは何としても読売を落とさないと駄目だと考え、交渉を進めて2001年8月に契約を結ぶことができた。ここが、ヤフーにとってガリバーに飛躍できる大きなターニングポイントでした。

──ヤフーに対抗すべく、2008年には読売、朝日、日経が共同で「あらたにす」をスタートします。社説、一面トップ、社会面トップなどの比較ができるサイトでした。

下山 企画書にはこう書かれていました。

《ネットの世界において、メガ・ポータルがニュース配信で大きな影響力を持ちつつある現状を打破するため、真のニュース発信者である新聞社が力を合わせ、ネットメディアとしても新聞社の影響力を飛躍的に高めることを目指す》

その意気やよし。が、言い換えると、紙の新聞でやっていることをネットでやろうとしていた。だから新聞案内人たるコラムニストをずらっと並べても、ネットで活躍をしている人は一人もいなかった。

一番の問題は、読売がヤフーから抜けられるかどうか、でした。しかし孫正義さんが当時の社長、内山斉氏のところに駆け込んできて、ヤフーからの離脱をやめるよう頼んだ。

このときの2008年末の契約改定で、ヤフーから読売に払われる情報提供料は倍になります。

社長室長として「あらたにす」の絵を描いたのは、のちにグループ本社の社長になる山口寿一氏ですが、当時は全社的な力を持っているわけではなく、結局、読売はヤフーから抜けられなかった。

──「あらたにす」のPVはイマイチだし、サイトの評判も散々。

下山 そうこうしているうちに、日経が有料電子版をスタートしてしまい、「あらたにす」から日経のサイトに飛んでも記事が読めなくなってしまった。もはやサイトの意味がなくなって、わずか4年強で終了。

3カ月後も通用する記事

──現在、新聞で有料電子版がうまくいっているのは日経だけですが、なぜですか。経済ニュースがネットになじむから?

下山 そういう人は多いのですが、実は大きな誤解です。

日経の記事をよく読むと、経済と言いながらも、それに特化しているわけではありません。たとえば、高齢化社会といいながら、特別養護老人ホームの空きベッドが首都圏の近郊で多くなってきているということを、記者たちが各自治体から集めたデータをもとに実証する記事(2018年12月16日)。

東京・神奈川・千葉・埼玉で、特養待機者が65500人もいるのに、約6000人分のベッドが空いている。なぜなら、介護現場での人材不足によって、受け入れを抑制する施設が増えてしまっているから……。

これは経済の記事ではありません。しかも重要なのは、そうした記事は3カ月後に読んでも古びていないんです。他の新聞が警察や検察、官庁の記者クラブと夜回りでペーパーをとるといういわゆる「前うち」報道に血道をあげている時に、独自の見方による独自の調査の記事を出してきている。

毎日のフロー(流れる)ニュースではなく、フローニュースの持つ意味がわかる、そんな記事を書くようにシフトしてきている。しかも、そうした記事が紙の新聞に載る前日の午後六時には、電子版に「イブニング・スクープ」として出してしまう。

こうしたやりかたで、現在、日経電子版の契約者数は72万人です。有料電子版は2010年3月から始まっていますが、ちょうどその間の紙の部数の落ち込みをカバーして、日経は売上がリーマンショック以降も落ちていない日本でただ一つの新聞社です。

1970年代に社長だった圓城寺次郎が「経済に関する総合情報機関」を提唱し、日経をつくりかえます。紙はもっている情報を伝える手段のひとつにすぎない。アーカイブは日経テレコン、速報は日経クイック、企業分析は日経NEEDSという具合に、新しい情報の出口を設けました。

圓城寺さんは当時、「いつか新聞も出していた会社と言われたい」と言っていましたが、20~30代だった社員はその考えを肌身で感じていた。彼らが40~50代になった2000年代半ばに、杉田亮毅さんは日経電子版を決断します。しかし、それが実際にできたのは、圓城寺次郎以来のDNAが共有されていたからです。

「読売はもたんぞ」の意味

関連する投稿


花田編集長の今日もねこびより|花田紀凱

花田編集長の今日もねこびより|花田紀凱

ねこ好きにはたまらない、WEB連載!花田家のねこをほぼ「毎日」(1年ぶりの復活です!)、紹介いたします。第15回は、「気が強いリスベット」です。名前はスウェーデンの作家スティーグ・ラーソンのミステリー『ミレニアム』の副主人公、小柄で暴れ者、やたらコンピューターに強い、リスベット・サランデルから。


ウィル・スミス、よくやった!|花田紀凱

ウィル・スミス、よくやった!|花田紀凱

今年の米アカデミー賞授賞式で、コメディアンのクリス・ロックを平手打ちした俳優のウィル・スミス。ウィル・スミス擁護の声がアメリカで大きくなると思っていたら――。


河井あんりさんは怒っていた|花田紀凱

河井あんりさんは怒っていた|花田紀凱

河井あんりさんが睡眠薬を飲んで、救急車で運ばれたと聞いて暗澹たる気持ちになった。あんりさんとは昨日午前中に電話で話をしたばかりだった――。


『作家の値うち』小川榮太郎インタビュー「いまの文壇は不真面目過ぎる」

『作家の値うち』小川榮太郎インタビュー「いまの文壇は不真面目過ぎる」

現役作家100人の主要505作品を、文藝評論家の小川榮太郎氏が100点満点で採点した話題の新刊『作家の値うち』(飛鳥新社)。筆者の小川氏が執筆の苦労や、いまの文壇の問題点まで、語り尽くす! (聞き手・花田紀凱)


「明かり」発言叩き、関口宏、坂上忍両氏は菅前総理に謝れ!|花田紀凱

「明かり」発言叩き、関口宏、坂上忍両氏は菅前総理に謝れ!|花田紀凱

8月、菅義偉総理(当時)は、コロナ感染者数の見通しについて、「明かりははっきりと見え始めている」と発言。マスコミは、一斉にこの発言を叩いたが、結果はどうだったか。あの「明かり」発言を叩いた連中よ、自ら言ったことの責任をとれ!


最新の投稿


岸田政権の〝増税〟に反対!|和田政宗

岸田政権の〝増税〟に反対!|和田政宗

時事通信は5月19日、『法人税率、引き上げ案が浮上』との見出しで、与党の税制調査会で法人税の実効税率を引き上げる案が浮上していると伝えた――。日本経済の閉塞感が強まっているなか、積極的な財政出動を行わなければ経済は支えられないのに、増税という論が出てくること自体が滅茶苦茶であり、私は明確に反対である。


払拭できない沖縄の反ヤマト感情|田久保忠衛

払拭できない沖縄の反ヤマト感情|田久保忠衛

沖縄返還の「核抜き」(沖縄からの核兵器撤去)の要求をニクソン政権がのんだことは、米国から中国への関係改善のシグナルとなり、ニクソン大統領の歴史的な訪中につながった。「核抜き」で最も喜ぶ国が中国であったことを、日本は今でも理解しているだろうか。


日本の核不安の一因はバイデン政権にある|太田文雄

日本の核不安の一因はバイデン政権にある|太田文雄

ウクライナ侵略後、ロシアが核兵器使用をほのめかして威嚇する中で、我が国においても核攻撃に対する不安から、米国との核共有や日本独自の核保有を検討すべきだとの議論が高まっている。そうした不安の一因はバイデン政権の政策にある。


【読書亡羊】皇室を巡る「公と私」の軋轢 江森敬治『秋篠宮』(小学館)

【読書亡羊】皇室を巡る「公と私」の軋轢 江森敬治『秋篠宮』(小学館)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


【にゃんこ四字熟語辞典クイズ】⑮これはどんな四字熟語?

【にゃんこ四字熟語辞典クイズ】⑮これはどんな四字熟語?

『Hanada』で書評を連載している西川清史さんが、世界中から集めた激カワにゃんこ写真に四字熟語でツッコミを入れた『にゃんこ四字熟語辞典』が発売されました。本書から一部を抜粋してクイズです。この写真はどんな四字熟語を現した一枚でしょうか?