新聞はあと5年でさらに1000万部減少する|下山進

新聞はあと5年でさらに1000万部減少する|下山進

タイトルは『2050年のメディア』だが未来を予想したものではなく現在ただいまの一冊。いまや誰もが当たり前のように使っているヤフーがどのように生まれ、ニュースのプラットフォームとして成長したのか、その一方でかつてのメディアの雄・新聞の地位が何故下がっていったのか……インターネット以降のメディアの内幕を描く本格ノンフィクション。著者は花田紀凱編集長の『週刊文春』時代の部下だった下山進氏。編集長が傑作と評する本書について直撃インタビュー!


新聞部数が1000万部減少

──(聞き手・花田紀凱本誌編集長)下山くんは、僕が『週刊文春』編集長時代の優秀な部下でした。新刊『2050年のメディア』(文藝春秋刊)はインターネット登場以降の、紙とデジタルの戦いを読売新聞、日本経済新聞、ヤフーの三社を舞台にして描いたノンフィクションの傑作です。

僕はアナログ人間でどちらかといえばデジタルは苦手だから、内容についていけるかなと心配しながら読み始めたんですが、これがすぐれて人間ドラマであり群像ドラマ。

しかも、たった一人の女性弁護士が大読売弁護団に挑む法廷劇あり、社史からも消し去られてしまった読売グループ本社の元社長の独白ありと、変化に富み、飽きさせない。思わず泣かせるくだりもある。分厚いけど一気に読みました。新聞関係者だけでなく、出版人などメディアに携わる人は必読の本ですね。

下山 ありがとうございます。花田さんにそう言われると嬉しいです。

──すでに業界内では話題で、重版もしている。2019年11月12日には日本記者クラブに招かれて会見を開き、130人も集まったそうですが、会場から質問は出ましたか?

下山 朝日新聞記者の大鹿靖明さんが来ていて、こんな質問をしました。

「なぜ朝日のことが書かれていないのか」

これは、この20年のメディアの大きな変化を書くにあたって、朝日は必要はないと判断したからなんです。渡邉恒雄さんのドグマのもと、紙にあくまでもこだわる経営を続ける「紙の王者」読売。ネットの情報はただと言われた時代に、まだ誰もやっていない有料電子版の市場にあえて出ていった日経。そして95年には存在すらしていなかったが、いまでは朝日、日経、読売の売上を全て足した額より多い1兆円近い売上をあげるようになったヤフー。

この3社の軌跡を描くことで、この20年に起こった大きな変化の本質は描ける。そう答えました。

──インターネット以前の通信社で起こった革命的な変化と、グローバル資本主義の成立について書いた『勝負の分かれ目』(講談社、現在は角川文庫)が1999年。20年ぶりの本でネット登場以降のメディア状況を書いたわけですが、いまこれを取りあげようと思ったキッカケは?

下山 2017年に文春社内で人事異動があって、当時の社長に局長を解任され、編集委員にさせられた。呆然として、たまたま新聞協会のHPをみていたら、新聞の総部数を年度ごとにあげているデータという項目があった。

最初、見間違えたと思ったんです。数字を書き取って何度も計算しました。そう、この10年で1000万部の部数を日本の新聞は失っていた。売上を調べると、5645億円減っている。これは大変なことが起こっていると思いました。

『勝負の分かれ目』のエピローグで、私はこう書いています。

《この変化の波(すでに70年代に日本の製造業は経験し、90年代に日本の金融業は経験している)は、やがてこうした太平の惰眠を貪り、旧来の方法を墨守している新聞や放送界にもやってくるだろう》

 この新聞協会の数字を見て、その変化の波はもう日本の新聞に来ているんだ! そう思いました。それで、このことを書こうと決意したんです。人生のある部分を賭けてもいいのではないか、と。

 会社はごたごたしていましたが、時間を無駄にするのはやめよう。本当に価値のあることをやろう、と。結果、会社を辞めてこの本の原稿を書くことになりました。

2050年のメディア

大学講座を基盤に調査

──在社中に、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)で講座を開きますよね。

下山 当時、私は編集者として、毎日新聞科学環境部の須田桃子さんの『合成生物学の衝撃』という本の原稿をとっていました。このなかに、2003年にマサチューセッツ工科大学で、数人の工学者たちが新しい生物学の講座をたちあげる話が出てくるんです。

生物学は、それまでは観察から仮説をたてて実証するという方法しかありませんでした。それを工学者(エンジニア)たちは、実際につくってみることはできないか、と考えたんです。というのは、90年代の遺伝子工学の発展で、アデニン、グアニン、シトシン、チミンから構成される遺伝子は、実験室で組み立てることができるようになっていたんです。

それで、コンピュータ上で遺伝子を設計して実際につくってみるという講座が始まります。それは今日、合成生物学という豊かな新しい学問として様々な発見を生み出している──。その話を読んだ時、同じことができないかと考えました。

つまり、この20年にメディアで起こった大きな変化を、大学の講座を基盤にして調査をするというやりかたです。そうして始まったのが、SFCの「2050年のメディア」という講座でした。

SFCでこの講座を開いたことの意味は大きかったです。この学校は1990年に開設されますが、開校時から総合政策学部も環境情報学部も全ての学生が例外なく、語学とともにコンピュータ・サイエンスが二年生まで基礎教科として必修になっていました。その後の産業構造の変化を考えてください。凄いと思いませんか?

慶應SFCに準備段階からかかわってきた村井純さん(現環境情報学部教授)には、本を書くにあたっての大きな示唆を受けました。たとえば、移動体通信の形式が3Gから4Gに変わったことの影響力に気がついたのは、村井さんが2005年に出した『アンワイアード』(インプレス)という本のおかげです。

この本は、コンピュータはワイアード、つまり、つないでいなければならない時代から、やがてアンワイアード、つながなくとも情報を送れる時代がやってくる、そのときに大きな産業構造の変化が起こる、と予言した本です。

2010年に、日本では3Gから4Gに変わります。それからわずか二年でスマホの普及率が5割になり、2017年には75パーセントになります。

そのなかで、インターネット以降も持ちこたえてきた新聞の部数は一挙にガラがくる(落ちる)のです。

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