【天下の暴論】私と夕刊フジ②|花田紀凱

【天下の暴論】私と夕刊フジ②|花田紀凱

28年間、夕刊フジで連載された「天下の暴論」。最後の3回で綴った夕刊フジの思い出を再録。


連載時、最大の事件

「天下の暴論」、思い出の続き。
 
29年間も連載していたのだから、数々の思い出、いろいろな出来事があった。
 
最大の事件は、このコラムを続けたため、ぼくが会社から譴責処分を受けたことだ。
 
人生、初めてにして、たった一度の譴責処分。会社の掲示板に張り出されてしまった――。
 
そもそも、この連載が始まった時、ぼくは文藝春秋から朝日新聞へ「電撃移籍」(当時の新聞の見出し)したばかりだった。
『週刊文春』『文藝春秋』で散々、批判してきた朝日新聞に行くとは、と呆れられもした。

一九九五年のマルコポーロ事件、阪神・淡路大震災と同じ年だからもう30年も前の話だ。
 
若い人は知らないだろうから書いておくが、ぼくが当時、『週刊文春』に続いて編集長をつとめていた『マルコポーロ』という雑誌で、西岡昌紀さん(医師)の「ナチガス室はなかった」というレポートを掲載した。

「ホロコーストはなかった」と書いたと批判されたが、西岡さんは実際にはガス室でチクロンBという薬品を使って、あれだけ多くのユダヤ人を殺せたのかという疑問を問題提起しただけだった。
 
だから、後で考えれば、「ガス室への疑問」くらいのタイトルにしておけばよかったのだ。
「なかった」と断定的なタイトルをつけたのは、ぼくの大きなミスだった。
 
ナチスの犯罪を追及してきたサイモン・ウィーゼンタールセンターから抗議を受け、雑誌は廃刊、ぼくは編集長を解任された。
 
余談だが、その時、産経新聞は1面で大きく「編集長解任」と報じ、夕刊フジは、ぼくが関係者に送ったお詫びの手紙を入手、そのまま1面に出してしまった。
 
私信を無断で公開していいのか、と抗議したが、手紙は受け取った方に所有権があると、謝罪はしてくれなかった。
 
で、いろいろあってぼくは朝日新聞に移り、『UNO!』という女性誌を創刊。創刊号では当時全盛のキムタクの表紙と巻頭インタビューで23万部完売した。
「天下の暴論」の連載が始まったのはこの頃だ。
 
が、『UNO!』も2年で休刊。そんな時、歴彦社長に誘われて、角川書店に移ったのだ。
 
角川書店、歴彦社長に関しても、いろいろ面白い話があるのだが、この際、それは置く。
「天下の暴論」の話だ。
 
角川書店では、歴彦社長の意向だろう、社員が他の媒体に書いたり、登場したりすることを極端に嫌っていた。
 
で、入社するとしばらくして、「天下の暴論」の連載をやめてくれというお達しがあった。
 
社長室に呼ばれ、歴彦社長、直々にそう言われたのだ。
しかし連載を初めて2年、コラムのコツもわかりかけたところで、ぼくは連載を続けたかった。
別にコラムを書くことで、会社に迷惑をかけているわけでもないではないか。
 
ぼくは社長の注意を無視する形で連載を続けた。
 
数日後、譴責処分を通告され、会社の掲示板に貼り出されてしまった。
 
その処分も無視して連載を続けたのだから、歴彦社長もさぞ呆れたことだろう。
 
余談だが、当時ぼくの上司だった取締役の土屋良彦さんと桃原用昇さんが、後に揃って産経新聞に移籍し、出版部門の仕事をしていた。
 
その桃原さんから夕刊フジに来ないかと熱心に誘われたのも、奇しき因縁というほかない――。
(私と夕刊フジ③に続く)

花田紀凱

https://hanada-plus.jp/articles/183

月刊『Hanada』編集長。1942年、東京生まれ。66年、文藝春秋入社。88年、『週刊文春』編集長に就任。部数を51万部から76万部に伸ばして総合週刊誌のトップに。94年、『マルコポーロ』編集長に就任。低迷していた同誌部数を5倍に伸ばしたが、95年、記事が問題となり辞任、1年後に退社。以後『uno!』『メンズウォーカー』『編集会議』『WiLL』などの編集長を歴任。2016年4月より現職。

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