まだある重大な疑問
中村氏がレッグに業務再開許可を出したことに関しては、もう一つ、重大な問題を指摘したい。
先の環境省の「産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業並びに産業廃棄物処理施設の許可事務の取り扱いについて」は、「少なくとも債務超過の状態でないこと」を産廃業者への許認可の条件にしている。
では、中村氏が業務再開許可を出した頃のレッグの経営状態はどうだったかというと、明らかな債務超過だったのだ。
企業が債務超過かどうかは、貸借対照表の「純資産の部」を見れば分かる。純資産というのは資産と負債の差額のことで、これがマイナスだと債務超過である。
つまり資産より借金のほうが多くなり、借金で何とか会社をやりくりしている状態だ。債務超過になると、金融機関から新たな借り入れを受けられないため、もし資金を出した相手が資金を引き揚げると倒産する危険性が高い。
レッグの08年3月末の貸借対照表の純資産の部を見ると、4239万円の債務超過、09年3月末も6885万円の債務超過になっている。
私の取材に、レッグの元役員の一人は「事業再開許可を市に出した当時の社長は、産廃業の素人だった。また、廃プラスチックの再利用で収益を上げないと経営が成り立たない状態だったが、廃プラに土砂が大量に混ざり、再利用は不可能だった」と証言しており、中村市長時代にレッグは事実上、経営破綻していた可能性がある。
中村氏がレッグに業務再開許可を出したのは09年の6月だが、08年、09年3月末の貸借対照表を見ると、経理面からも、中村氏が出した再開許可の妥当性には大きな疑問符が付く。
まだある虚偽発言
「正義のヒーロー」のごとく持てはやされた加計問題では積極的に取材に応じる中村知事(KyodoNewsより)
ところで、会見での中村氏の発言には、他にも嘘と思える内容のものがあった。
中村氏がレッグ問題で持ち出した“部下のメモ”についての発言だ。
私は前回のレポートで、メモは真偽不明で、中村氏は市議会に責任転嫁しているのではないかと指摘した。その点について県政担当記者が質問したところ、中村氏は、虚偽発言とも取れる、真意を測りかねる発言をした。
「あのメモについても、これも市議会から提出を求められたら出しますよというところまで申し上げたんですが、何も言ってこないんですね」
中村氏はこうも言った。
「当時から議員さんのレッグという会社との関係であるとか、ただこれも、うかつに名前とか出すとですね、また訴訟問題になるんですね。ですから、そこは慎重にやらせていただきました。結果として、市議会から、例えば説明に来るようにとか、資料を出せと言われれば、いつでも出しますよとまで言っているんですが、何もアクションがないということで、そのままになっていると」
すでに書いたとおり、松山市議会は14年にメモの返還決議を可決している。返還決議の前にも、松山市議会では中村氏に対し、メモの公開を求める声が相次いだが、中村氏はメモの概要なるものを公表しただけで、メモの現物の公表を拒んだ。
「メモが本当にあるのなら、それを公開すれば済む話。中村氏は、名誉毀損訴訟を起こされる畏れがあることを理由に公開を拒んでいるが、万に一つ、メモなるものが存在しているとしても、その内容は怪文書まがいの代物で、証拠能力がまるでないものなのだろう。出すに出せないというのが実際のところではないか」
ある松山市議はそう話す。
このメモ問題については、13年から14年にかけて地元メディアでも繰り返し報じられてきたので、県政担当記者ならその経緯を詳しく把握しているはずだ。
当然、会見での中村氏の発言についても「事実に反しているのではないか」と感じた記者もいるはずなのに、不思議なことに、会見でそれを指摘した記者は一人もいなかった。
会見では、加計学園問題との絡みで知事に質問した記者もいた。この記者は「レッグ問題に絡めて、加計学園の関係の県文書についても、信ぴょう性を疑問視するようなことが書かれていたが、そのことについては」と質問した。
だが前回のレポートは、中村氏を後押ししてきた加戸守行前愛媛県知事が産経新聞(2018年5月23日付)に寄せた談話に触れたに過ぎない。加戸氏は「(首相と加計理事長が面会したという文書については)加計学園側が今治市に話したことを県が今治市から聞いて、メモにしている。伝聞の伝聞。信憑性は疑わしい」と産経新聞に述べている。
私自身は、加計学園絡みのメモについて真偽を判断する特別な材料を持ち合わせていないが、レッグ問題のメモについては、取材や関連資料の分析の結果、本当に存在するのかどうか極めて怪しいと感じている。また、メモを使って市議を批判し、責任転嫁する中村氏の手口に、あざとさと、いかがわしさを感じているのも事実だ。