窮地に立った中村知事は、実施計画の発表の約2週間後、愛媛県庁での記者会見で「(市長当時の自分の対応は)法的には問題がなかった」と自己を正当化する一方、「(レッグ問題では)市議さんがうごめいていた」と突然、主張し始めた。
中村氏の発言には、松山市議会に責任を転嫁しようとする思惑が感じられた。
その後、中村氏は、市議がうごめいていた証拠として、市長時代の市役所の「部下から上がっている文書がある」 「関係部局が相談したメモが残っている」と言い出した。
さらに中村氏はメモを参考に、自らパソコンで打ち直したという「メモ概要」なるものを公表した。
真偽不明のメモをもとに市議会批判を続ける中村氏に対し、松山市議会は「メモが本物なら、市が所管すべき公文書の行政情報に当たる」として、中村氏にメモの返還を求める決議を賛成多数で可決。
返還を求める決議文には、“濡れ衣”を着せられた市議会議員たちの怒りが込められていた。
「レッグ問題は、当時の松山市長の不適切、不十分な行政対応が原因となり、ここまで問題が深刻化した人災である」
「レッグ問題の発生とは全く関係が無いことを認めながら、未だに固執し続ける議員関与や圧力、また、根拠のない誹謗中傷・責任転嫁など、問題解決、真相解明に向けた取り組みに支障となっている知事による不可解な言動に終止符を打ち、更には、知事による市政への不当介入に歯止めをかける」
だが中村氏は、市議会の決議を「ばかばかしい」と言って無視し、返還を拒否。メモが本当に実在するのかどうかの客観的証明がなされないまま、現在に至っている。
なお、市議の介入について野志市長は「把握していない」と発言。市議の関与があったと主張しているのは中村氏だけだ。
定例会見での問題発言
こうした経緯を踏まえたうえで、2019年1月31日の定例会見での中村氏の発言を検証する。 まず問題なのが、本誌の報道への感想を訊かれたときの中村氏の発言である。
中村氏は感想はそっちのけで、レッグ問題については法律上の制約があり、その制約の範囲内で対応せざるを得なかったと釈明したのだ。
「そもそも産廃の許認可事務というのは、国の法定受託事務なんですね。こういうルールで、こういう条件を満たせば、ちゃんと許可を下ろしなさいよというルールが決まっているので、実は、そこをチェックするのが法定受託事務の特色になっていますから、そこの裁量というのは、県にはないんですね。ですから、そこを逸脱すると訴訟で負けてしまいますから、その範囲で行った」
すでに述べたとおり、私が問題にしているのは、松山市長時代に中村氏がレッグに対し、免許取り消しや法的拘束力のある行政処分を行わなかったことの妥当性と、それによって発生した大規模環境汚染についての中村氏の責任である。
知事としての中村氏の対応を問題にしているわけではない。
また、産廃業者に対する許認可権の行使に関して、国の法定受託事務だから自治体ができることは限られているような言い方もおかしい。
法定受託事務とは、本来国が果たすべき事務を地方自治体が行うもの。だが産廃業者に対する指導、処分、許可の権限は国ではなく、都道府県知事、政令指定都市と人口三十万人以上の中核市の首長が持っている。松山市は中核市の一つだ。
レッグ処理場の歴史を辿ると、もともとは愛媛県の所管だった。それが1998年に松山市に管理が移行したのに伴い、レッグに関する指導、処分、許可の権限も松山市長に移譲された経緯がある。 環境省環境再生・資源循環局廃棄物規制対策課も、「松山市長には、廃棄物処理法の規定に基づき、産廃業者への許認可権がある」と本誌の取材に答えている。
では、こうした権限を首長が発動するのはどういうときなのか。環境省の通知「産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業並びに産業廃棄物処理施設の許可事務の取扱いについて」(06年改正)によると、産廃業者には欠格要件があり、これに該当する業者に対して首長は「速やかに不許可処分を行うこと」と定めている。また、「更新許可の場合においては、速やかに従前の許可の取消しを行うこと」と決めている。
欠格要件に関しては、破産や刑事罰を科された場合などがあるが、それとは別に「おそれ条項」という項目も設けられている。
「申請者の資質及び社会的信用の面から、将来、その業務に関して不正又は不誠実な行為をすることが相当程度の蓋然性をもって予想され、業務の適切な運営を期待できないことが明らかである場合には、許可をしてはならないこと」
このおそれ条項の4項目目と7項目目には、「廃棄物処理業務に関連した法令違反に関わる行政庁の指導等が累積することなどにより、上記と同程度に的確な業の遂行を期待し得ないと認められる者」に対しては、許可をしてはならないとされている。
自らが犯した失態の重大さに無自覚すぎる
では、問題のレッグはどんな業者だったのか。これについて、1月31日の会見で、中村氏は次のように話している。
「松山市長時代に幾度となく、改善の文書指導とか出し続けたんですが、全然応えられない。確かに、その結果として、まさか、あれだけのことをしでかしてですね、無責任にいなくなる。ましてや会社が転売、転売を繰り返して、自殺者まで出るというような会社でしたから、もうこれは悪質極まりない状況になっていたので、危惧をしていました」
ところが、当時の中村市長は従うかどうかは業者次第という、任意の指導を13回も繰り返した挙句、業務廃止届を出したレッグに対し、業務再開許可を出したのだ。
松山市が作成し、国が同意した先の「実施計画」は、当時の中村氏の対応を次のように批判している。
「『行政指導』は、事業者に対して任意の改善を期待するものであり、初めて指導する場合や軽微な違反の場合には有効であるが、指導しても改善が見られず、同様の違反内容を繰り返しているような状況であれば、適切な時期に改善命令等の法的拘束力のある行政処分を行うべきであった」 「市の権限行使の妥当性については不適当であったと認められる」
中村氏は市長在任中の早い時点で行政処分、免許取り消しなどの権限を行使すべきだった。ところが、それを怠り、ダラダラと任意の指導を繰り返した。その結果、重大な環境汚染が発生し、70億円もの血税を投入することになったのだ。
中村氏の責任は極めて重大である。
ところが中村氏には、自らが犯した失態の重大さについての自覚がほとんど感じられない。1月31日の会見で、中村氏はこう言った。
「だから、法律論の中では、やったつもりなんですけれども、結果としてね、やはり残念な、あれだけの無責任な体制で、しかも、当初の関わった方も逃げ出すような状況でしたから、それはもう本当にその結果については、私はおわびを申し上げてきた経緯があります」
中村氏が言った無責任という言葉は中村氏にこそふさわしいが、それはさておき、中村氏が「おわびを申し上げてきた」というのは本当なのか。
私が知る限り、中村氏は一貫して「(市長当時の自分の対応について)法律的には問題はなかった」と主張してきた。
また、14年3月4日の愛媛県定例議会では「度重なる行政措置命令を出したにもかかわらず、このレッグという会社は全く従わずに、そして問題が起こった」と、明らかな虚偽答弁を行っている。繰り返すが、中村氏は一度も強制力のある行政措置命令を出したことがない。
中村氏のこれまでの発言をトレースすると、悪いのは業者と市議(これについては後述する)であり、自分は悪くないというのが本音のようだ。