中村氏は、加計学園の獣医学部開設を巡り、「首相案件」などと記した愛媛県職員のメモなるものを公表して安倍政権と対峙。「ものを言う知事」ともてはやされた。
だが、中村氏の動機については「2018年11月の県知事選挙を控え、安倍政権はもたないと踏み、加計問題で“道連れ心中”は御免と突き放し、火の粉を振り払ったのではないか」との指摘もある。
実際、中村氏には、6年前にも“部下のメモ”なるものを持ち出して、火の粉を振り払った過去があった。
中村氏は1999年から2010年11月までの11年間、松山市長を務めたが、市長在任中に持ち上がったのが、いわゆる「レッグ問題」だった。
レッグ問題とは、松山市の産業廃棄物処理業者(株)レッグが大規模な環境汚染を引き起こし、その対策費として国、県、松山市が総額約70億円もの税金を投入した事案だ。レッグ問題に使われた税金は、愛媛県と今治市が加計学園に提供した約93億円の補助金に匹敵する規模である。
レッグは埋立超過などの違反を繰り返す悪質な業者だった。ところが当時の中村市長はレッグに対し、強制力のない口頭指導や文書指導を繰り返すばかりで、施設の使用停止命令や改善命令などの法的拘束力のある行政処分、免許奪を一度たりとも行わなかった。
中村氏が抜本的対策を怠っている間に、レッグ処理場は大量の廃棄物でほぼ満杯状態になり、レッグはいったん市に業務廃止届を提出したが、その裏では埋立業務継続を市に働きかけていた。
レッグの業務継続には、処理場の埋立容量を新たに確保する必要があった。そこでレッグは市の了承のもと、廃棄物を重機で圧縮する「転圧」という作業を実施。これにより5000立方メートルの埋立容量が新たに確保された。
転圧の半月後、中村氏はレッグに業務再開許可を出したが、その後、レッグ処理場から灰濁した汚染水と廃棄物が流出する事故が発生し、大規模な環境汚染問題に発展した。
流出事故は、無理な転圧によって引き起こされた。レッグ処理場の下には地下水路が流れており、転圧によって水路の一部が破損し、そこから処理場内の汚染水と廃棄物が流れ出したのだ。
2019年2月4日付愛媛新聞
国も認めた対応の誤り
レッグに再開許可を出し、環境汚染の原因を作った中村氏は2010年11月に知事に転身。中村氏の後任には、中村氏の側近の野志克仁氏が就任した。
12年9月、松山市はレッグ問題について、有識者による第三者の検討部会を設置。そこでの議論を踏まえ、13年3月、松山市はレッグ処理場の「特定支障除去等事業実施計画」をまとめ、翌月の4月10日に発表した。なお、実施計画は国(環境省)に提出され、国の同意を得た。
実施計画には、当時の中村市長の対応を厳しく批判する内容が盛り込まれた。
たとえば、地下水路の破損につながる畏れがある転圧行為について、実施計画はこう指摘している。 「何ら指導を行っておらず、埋立容量増加や処分業の一部再開などの許可更新を続けていた」
さらに実施計画は、中村市長と松山市の対応を以下のように厳しく批判した。
「適切な時期に改善命令等の法的拘束力のある行政処分を行うべきであった」
「市の権限行使の妥当性については不適当であったと認められる」
先に触れたとおり、この実施計画には国も同意している。つまり国も、当時の中村市長の対応の誤りを認めたのだ。