福島の「風評被害」は第二の「慰安婦問題」になる|渡辺康平

福島の「風評被害」は第二の「慰安婦問題」になる|渡辺康平

ニッキー・ヘイリー前米国連大使は昨年6月19日、米国が国連人権理事会を離脱したと発表しました。ヘイリー前大使は、同理事会を「政治的偏見の掃きだめ」 「偽善と自己満足に満ちた組織が人権を物笑いの種にしている」と述べた、とBBCが報じています。私は、ヘイリー前大使の痛烈な国連人権理事会批判に強く賛同します。


政府はなぜ反論しないのか

しかし、野党、日弁連、GPは、自主避難者に対する住宅の無償提供再開を求めています。住宅の無償提供再開の根拠として、「国内避難民に関する指導原則」を自主避難者に対して適用・周知させようとしています。

7月4日の衆議院議員会館内での集会において、外務省国際協力局緊急人道支援課の担当者は、国内避難民に関する指導原則の「日本語訳の翻訳作業」を始めたと説明しています。

国内避難民に関する指導原則に関する日本政府としての日本語公式翻訳はありません。野党・日弁連・GPは、日本語の公式翻訳ができることで、政府が「原則」を周知させ、行政が「原則」に則った避難者対策を行い、政府が「原則」を法律として取り入れることを目標としています。

ここまで、GPによる一昨年から今年にかけての一連の動向を述べてきました。最後に、政府と福島県の対応について述べていきます。

国連人権理事会による「ドイツ、オーストリア、ポルトガル、メキシコの政府代表者」からの人権侵害の「是正勧告」に対して、政府はこの勧告を受け入れています。

各国から出された全217件の勧告に対して、政府は145件を受け入れ、34件を受け入れ拒否、その他は留意等としています。この145件のなかの4件が「原発事故の避難」に関する勧告でした。

国連人権理事会の勧告は、たとえ政府が受け入れたとしても、すでに実施済みと回答するケースが多く、政府が新たな政策として実施しなければ効力を持ちません。

しかし、政府が受け入れを表明したことで、その実現を目指すために野党第一党の立憲民主党を筆頭に、国会において政府に対して勧告の実現を要求することになりました。

国連人権理事会における各国の委員は、福島県内の状況に対してほとんど知識はなく、GPの主張を鵜みにしています。やはり、政府としては4つの勧告に対して反論し、受け入れ拒否すべきであったと思います。その場で反論せず、受け入れてしまえば、相手はどんどんエスカレートしていきます。

また、国連人権理事会による「是正勧告」(recommendation)について、AJCN代表の山岡鉄秀氏は著書『日本よ、もう謝るな!』(小社刊)のなかで、recommendationは「提案・提言」であって、「勧告」と翻訳することについて適切ではないと指摘しています。
「勧告」と訳すことで、何らかの強制力があるかのように受け止めがちですが、実際には国連人権理事会による「提案・提言」であり、無視する国もたくさんあります。

「参考にはする。もし的を射た指摘があれば対応する」。これが政府の基本スタンスであるべきだと山岡氏が指摘するとおり、日本が右往左往する必要はないのです。

そのうえで、事実に反した内容や国内の実状に合わない内容については、政府はしっかり反論すべきです。 残念ながら今回のケースでは、政府による反論はありませんでした。

「4つの勧告」について政府が明確な反論をせずに受け入れたことで、さらに状況は悪化していきます。昨年10月25日の国連総会にて、国連人権理事会の特別報告者バスクト・トゥンジャク氏は国連本部で会見し、原子力発電所の事故で避難した子どもや出産年齢の女性の帰還について「問題視している」と述べています。さらに被曝線量が年間1ミリシーベルト以下という基準が適切で、20ミリシーベルト以下で避難指示を解除している日本政府の対応を批判しました。

この特別報告者の主張は「4つの勧告」とまったく同じ内容であり、到底受け入れられる内容ではありません。政府は会見後に開かれた会合で、20ミリシーベルト以下という基準値は国際放射線防護委員会による勧告の範囲内だとし、報告者の批判は「風評被害に苦しむ福島の人々の状況悪化につながりかねない」と反論しています。

さらに、11月6日には外務省の公式ウェブサイトに「国連特別報告者2名からの情報提供要請に対する回答(福島第一原発事故関連)」を掲載し、特別報告者バスクト・トゥンジャク氏とヒメネス・ダマリー氏に対して、政府として反論したことが書かれています。

特別報告者に対する政府の毅然たる反論については評価しますが、やはり平成29年11月の国連人権理事会における4つの勧告に対して、反論せず受け入れてしまったことは、わが国にとって大きな痛手となりました。

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不幸の連鎖は続く

最後に、福島県内では今回の国連人権理事会における「提案・提言」(recommendation)に、どのように反応したのか述べておきます。

平成29年11月20日に、福島県の内堀雅雄知事は定例の記者会見において、国連人権理事会作業部会の勧告について発言しています。

記者からの質問に対して、内堀知事はこれまで福島県が取り組んできた復興政策について発言しています。福島県庁のウェブサイトを検索しましたが、国連人権理事会について触れた内容はこの1件のみでした。

また、福島県議会の議事録を検索しましたが、国連人権理事会については議会において取り上げていません。この国連人権理事会における「いわゆる是正勧告」については、私が調査したところ、福島県議会議員、福島県庁職員で知っていた人は誰もいません。

当然のことながら、今回のGP発→国連人権理事会経由→永田町の一連の動きをほとんどの福島県民は知らないと断言できます。

ほとんどの福島県民、福島県議会、福島県庁が全く知らない間に、一連の動きが行われていました。その間に、一部の自主避難者の主張が国連を経由して世界中に拡散されていることは、まさに福島県民同士が不幸の連鎖を作り上げているとしか言いようがありません。

自主避難者の家庭では、夫と両親が福島県内に残り、母子が県外に自主避難した結果、離婚につながった事例も多くみられます。原発事故以降、科学よりもイデオロギーを優先する活動家によって、福島県民の分断が煽られてきました。

また、避難先における高齢者の健康影響も重大な問題です。相馬中央病院の坪倉正治氏によれば、「避難は放射線被曝を低減するための最も有効な手段である一方で、震災数年間を通して最も大きな健康影響を持ちうる。中・長期的には、糖尿病に代表される慢性疾患・生活習慣病、運動機能の悪化は最重要課題の1つである。特に糖尿病の悪化による影響は、放射線被曝の数十倍の健康影響を及ぼしうる」と指摘しています。

無責任な活動家による避難継続の扇動が、すでに実害を引き起こしていると言っても過言ではありません。

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