福島の「風評被害」は第二の「慰安婦問題」になる|渡辺康平

福島の「風評被害」は第二の「慰安婦問題」になる|渡辺康平

ニッキー・ヘイリー前米国連大使は昨年6月19日、米国が国連人権理事会を離脱したと発表しました。ヘイリー前大使は、同理事会を「政治的偏見の掃きだめ」 「偽善と自己満足に満ちた組織が人権を物笑いの種にしている」と述べた、とBBCが報じています。私は、ヘイリー前大使の痛烈な国連人権理事会批判に強く賛同します。


さらに、GPや参加した弁護士は「この決定は数万人の避難者や市民社会にとって1つの勝利であるとの認識を示した一方、政府が、被害者に必要な支援をしているなど実情と異なる説明をしていることを非難し、今後、表面的な対応をとるのではなく、すみやかに政策を転換すべきと訴えました」とGPのウェブサイトに記述されています。

◆GPのウェブサイトおよび動画から割り出した人物は次の通り

・松本徳子氏: 避難の協同センター代表世話人、福島県郡山市から神奈川県に自主避難

・伊藤和子氏: 弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長

・海渡雄一氏: 弁護士、日弁連UPRワーキング委員。福島みずほ参議院議員の夫。

・ヤン・ヴァンダ・プッタ: GPベルギー

・森松明希子氏: 東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream(サンドリ)代表、原発賠償関西訴訟原告団代表、原発被害者訴訟原告団全国連絡会共同代表、福島県郡山市から大阪府に自主避難

・岩渕友氏:共産党参議院議員、喜多方市生まれ

・山添拓氏:共産党参議院議員

その後、4月4日に、参議院東日本大震災復興特別委員会において、立憲民主党の参議院議員・川田龍平氏が国連人権理事会の4カ国による勧告をテーマに、政府に対して質問を行いました。

時系列化すると分かることは「展開の速さ」です。一昨年10月12日の国連人権理事会におけるGPのスピーチから昨年4月4日の立憲民主党・川田議員による国会質問まで、約半年で展開しています。

以上の時系列から、GPという組織がいかに国連人権理事会での活動に“手慣れているか”が分かります。さらに日本国内ではGPが日弁連、立憲民主党、共産党など弁護士団体や野党と“連帯”していることが判明してきました。

昨年7月4日には衆議院議員会館で勉強会を開き、外務省国際協力局緊急人道支援課から説明を受けています。

GPのブログには、国会でいちはやく国連人権理事会における勧告を取り上げた立憲民主党の山崎誠衆議院議員が冒頭にあいさつをしたと書かれています。

なお、当日の参加議員は以下のとおり(50音順)。

岩渕友参議院議員(共産党・全国比例)、金子恵美衆議院議員(無所属の会・福島第1区)、紙智子参議院議員(共産党・全国比例)、吉良よし子参議院議員(共産党・東京選挙区)、辰巳孝太郎参議院議員(共産党・大阪選挙区)、福島みずほ参議院議員(社民党・全国比例)、堀越啓仁衆議院議員(立憲民主・北関東ブロック比例)、森山浩行衆議院議員(立憲民主・大阪府第16区)、山崎誠衆議院議員(立憲民主・東北ブロック比例)、山添拓参議院議員(共産党・東京選挙区)、山本太郎参議院議員(自由党・東京選挙区)。

議論は平行線のまま

積極的に議員会館にて集会を開き、野党議員を動かしていくGPの狙いとは何か。そのキーワードが「国内避難民に関する指導原則」です。

立憲民主党の川田議員の質問主意書にも、国内避難民に関する指導原則を周知するように求める内容が書かれています。

「一、UPR作業部会におけるポルトガルからの『福島第一原発事故の全ての被災者に国内避難民に関する指導原則を適用すること』という勧告に従い、国内避難民に関する指導原則を、福島第一原発事故の避難者を受け入れている全国の自治体に対して周知すべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい」

この質問主意書に対する政府答弁書は次のとおりです。

「お尋ねの趣旨が明らかではないが、いずれにせよ、我が国はご指摘の『国内避難民に関する指導原則』の趣旨を尊重しており、政府として適切に対応して参りたい」

政府としては、すでに国内避難民に関する指導原則の趣旨を尊重しているが、川田議員、山崎誠議員、GPは周知されていないと議論は平行線のままです。

どのような人々が難民と呼ばれるか。これには条約による明確な定義が存在し、「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であること、または政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けられない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者」と定められています。

「難民条約」によって、難民が享受できる基本的な権利と、難民受け入れ国の義務も明確にされています。

一方、国内避難民(IDP)はどのような人々でしょうか? 国内避難民には、明確な法的定義が存在しません。状態を表す定義として、紛争や政治的な迫害、そして災害等によって『非自発的な移動を強いられている』人々で、『自国の中に居る人』が、国内避難民と呼ばれます。

もし、日本国内において「国内避難民」という状態を表すのであれば、原発事故によって帰還困難となった避難指示区域の住民に該当するかもしれません。

4月4日の参議院東日本大震災復興特別委員会における小糸正樹復興庁統括官の答弁においても、「避難されている方々が帰還される場合には、安心して生活できるように、医療、介護、買い物環境、教育などの生活環境の整備を支援しております」「そういった意味で、今後とも、ご指摘の指導原則の尊重をしながら、被災者の方々の声に耳を傾けながらできる限りの支援を行ってまいりたい」という答弁です。

それに対して、川田議員、山崎誠議員、GPは、自主避難者を含めて国内避難民に関する指導原則を適用・周知するように求めています。

自主避難者とは原発事故が発生した際、避難指示区域には含まれなかった区域の住民が放射性物質の飛散による健康被害などを懸念して、自発的に原発からより遠く離れた市あるいは他県へ移ったケースを示します。

自主避難者が避難した地域は避難指示区域ではなく、県庁所在地である福島市、県中心部の郡山市、浜通りから最も離れた会津若松市、私の住む須賀川市等、そこには多くの福島県民が生活をしています。

「国際的な原則」とは?

自主避難者に対しては、福島県による住宅の無償提供が続けられてきましたが、2017年3月末で終了しています。7月4日の衆議院議員会館における集会にて、国連人権理事会においてスピーチした自主避難者の森松明希子氏は以下のように発言しています。

「とくに避難指示区域外の避難者の実情が把握できておらず、そのため効果的な支援ができていない。国際的な原則が守られておらず、差別も起きている。また、帰還する人への支援が厚く、帰還しない人への支援が打ち切られている。避難を続けたい人が続けられる施策をお願いしたい」

森松氏は兵庫県に生まれ、東日本大震災時は郡山市で被災しています。森松氏が自主避難した郡山市では、いまでも33万人以上の住民が日常生活を送っています。はたして、現在も避難する必要があるのでしょうか。

震災当初は日々の原発事故に関する緊迫したニュース、政府の情報発信の不手際、メディア発の放射能デマなど、不安のなかで自主的に避難したことは責められることではなく、当時は仕方がなかったと思います。

しかし、震災と原発事故から8年が経過し、県内の多くの地域で除染が進んだ現在において、自主避難者に「避難を継続していく経済的支援」が必要とは思いません。

福島県は現在も情報提供を主とした、各都道府県への職員派遣や県外復興支援員の設置といった避難者支援事業を実施しています。こうした取り組みも、はたしていつまで続けていくべきか総括する時期にきています。

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