福島の「風評被害」は第二の「慰安婦問題」になる|渡辺康平

福島の「風評被害」は第二の「慰安婦問題」になる|渡辺康平

ニッキー・ヘイリー前米国連大使は昨年6月19日、米国が国連人権理事会を離脱したと発表しました。ヘイリー前大使は、同理事会を「政治的偏見の掃きだめ」 「偽善と自己満足に満ちた組織が人権を物笑いの種にしている」と述べた、とBBCが報じています。私は、ヘイリー前大使の痛烈な国連人権理事会批判に強く賛同します。


復興を無視した暴論

政府の避難指示解除の基準としては20ミリシーベルトを目標として、長期的に1ミリシーベルトまで下げることを目標としています。放射線防護に関する国際基準として広く認められている考え方である年間20ミリシーベルト~100ミリシーベルトの範囲のうち、最も厳しい値の年間20ミリシーベルトを避難指示の基準として採用しました。

GPは避難区域の放射線量を「年間1ミリシーベルト」に設定した場合、避難指示解除地域では少なくとも「21世紀半ば」まで、まだ避難区域である地域では「22世紀」まで基準が達成されるのは難しい、とハンギョレ新聞の取材に答えています。

つまり、即座に年間1ミリシーベルトという数値を設定することは荒唐無稽な主張であり、双葉郡周辺の復旧・復興を無視した暴論だといえます。

こうした年間1ミリシーベルトを絶対視したGPの主張は、「浪江町の復興拠点計画を撤回」 「除染労働者保護の観点から、これらの地域での除染計画は停止」といった避難指示区域における除染計画すら否定しています。

科学的根拠に基づいての安全性という観点はもとより、福島県や福島県に住む県民の生活再建には必ずしも寄与しません。GPの身勝手な主張が、残念ながら国連人権理事会において「勧告」となり、政府はこれを受け入れてしまったのです。

平成29年10月12日、GPはスイス・ジュネーブで開かれた国連人権理事会の普遍的・定期的レビュー(URP)事前セッションに参加しました。

日本の人権状況に関するセッションで、“自主避難者の園田光子氏”が「被曝に関して女性と子供の健康への権利が侵害されていること」や「放射能汚染が続く地域への帰還圧力の改善の必要性」を、国連人権理事会の各国政府代表者に対して訴えています。

その後、11月14日に開かれた国連人権理事会による日本の普遍的・定期的レビュー(UPR)の作業部会で、東京電力福島第一原発事故をめぐる日本政府の対応に「ドイツ、オーストリア、ポルトガル、メキシコの政府代表者」が人権侵害の「是正勧告」を行いました。

4カ国による日本に対する是正勧告内容は次のとおりです。

”自主避難者”が訴え

「福島の高放射線地域からの自主避難者に対して、住宅、金銭その他の生活援助や被災者、特に事故当時、子供だった人への定期的な健康モニタリングなどの支援提供を継続すること」(オーストリア)

「男性及び女性の両方に対して、再定住に関する意思決定プロセスへの完全かつ平等な参加を確保するために、福島第一原発事故の全ての被災者に、国内避難民に関する指導原則を適用すること」(ポルトガル)

「特に許容放射線量を年間1ミリシーベルト以下に戻し、避難者及び住民への支援を継続することによって、福島地域に住んでいる人々、特に妊婦及び児童の最高水準の心身の健康に対する権利を尊重すること」(ドイツ)

「福島原発事故の被災者及び何世代もの核兵器被害者に対して、医療サービスへのアクセスを保証すること」(メキシコ)

年が明けて、平成30年1月23日、国連人権理事会の加盟4カ国が東京電力福島第一原発事故被害者の人権状況を是正するよう日本政府に勧告したことを受け、GPは勧告を受け入れることを求めた署名3,090筆を外務省に提出しています。

その時に、外務省人権人道課主席事務官が署名を受け取り、環境省、文部科学省、復興庁の担当者も同席しました。

翌月の2月19日、衆議院予算委員会にて、立憲民主党の山崎誠衆議院議員が国連人権理事会における勧告を取り上げ、政府に対して勧告内容の前向きな検討を要望する質問を行いました。

この時の山崎議員の質問内容は不明確であり、河野外務大臣から「おっしゃっている意味がよく分からない」と一蹴されています。

そして、3月5日に国連人権理事会の勧告に対する政府の見解が公表されました。ドイツ、オーストリア、ポルトガル、メキシコの国連加盟国が政府に勧告した内容について、これらの4つの勧告を受け入れました。

なお、各国から出された全217件の勧告に対して、政府は145件を受け入れ、34件を受け入れ拒否、その他は留意等としています。

政府が「4つの勧告」を受け入れたことに歓喜したGPは、さらに活動を活発化させていきます。

昨年3月8日、GPは参議院議員会館での「国連人権理事会 普遍的・定期的レビュー(UPR)福島原発事故関連の勧告の意義とは?」と題した集会を開催しました。

GPは国連の対日人権審査で出された原発事故関連の勧告について、政府が受け入れを表明したことを「歓迎」するとともに、「勧告を受け入れるからには、ただちに実行」するよう発言しています。

お馴染み「国連左翼」の面々

関連する投稿


新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

とるべき財政政策とエネルギー政策を、アメリカの動きを参照しつつ検討する。自民党総裁候補者たちは「世界の潮流」を本当に理解しているのだろうか?


なぜ政府は南海トラフ「巨大地震注意」を出したのか?|和田政宗

なぜ政府は南海トラフ「巨大地震注意」を出したのか?|和田政宗

初めて発表された「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」に対して否定的な意見も多数あったが、政府が臨時情報を出したのは至極真っ当なことであった。(サムネイルは気象庁HPより)


南海トラフ「巨大地震注意」は至極真っ当な発表だ|和田政宗

南海トラフ「巨大地震注意」は至極真っ当な発表だ|和田政宗

8月8日、気象庁は「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。「国民の不安を煽るだけ」という否定的な意見もあるが、はたして本当にそうなのか。この情報をどう見ればよいか、解説する。(サムネイルは気象庁ホームページより)


災害から命を守るために憲法改正が必要だ|和田政宗

災害から命を守るために憲法改正が必要だ|和田政宗

私は、東日本大震災の津波で救えなかった命への後悔から、その後、大学院で津波避難についての修士論文をまとめた。国会議員に立候補したのも震災復興を成し遂げるという意志からであった。だが、災害などの緊急時に対応できる憲法に現行憲法はなっていない――。


「トランプ大統領」阻止に死に物狂い、米民主党のウルトラC【ほぼトラ通信】|石井陽子

「トランプ大統領」阻止に死に物狂い、米民主党のウルトラC【ほぼトラ通信】|石井陽子

今度のアメリカ大統領選挙は単なる「トランプvsバイデン」の単純な構図ではない!「操り人形」「トロイの木馬」「毒蛇」――トランプの対抗馬と目されていたニッキーヘイリーはなぜ共和党内からこう批判されるのか。日本では報じられない米大統領選の深層!


最新の投稿


【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。