福島の「風評被害」は第二の「慰安婦問題」になる|渡辺康平

福島の「風評被害」は第二の「慰安婦問題」になる|渡辺康平

ニッキー・ヘイリー前米国連大使は昨年6月19日、米国が国連人権理事会を離脱したと発表しました。ヘイリー前大使は、同理事会を「政治的偏見の掃きだめ」 「偽善と自己満足に満ちた組織が人権を物笑いの種にしている」と述べた、とBBCが報じています。私は、ヘイリー前大使の痛烈な国連人権理事会批判に強く賛同します。


原発被害を国連へ

ニッキー・ヘイリー前米国連大使は昨年6月19日、米国が国連人権理事会を離脱したと発表しました。ヘイリー前大使は、同理事会を「政治的偏見の掃きだめ」「偽善と自己満足に満ちた組織が人権を物笑いの種にしている」と述べた、とBBCが報じています。

私は、ヘイリー前大使の痛烈な国連人権理事会批判に強く賛同します。特に、チベットやウイグルに対する凄まじい弾圧・人権侵害を現在進行形で行っている中国が同理事会の理事として議席を得ていることは、まさに偽善です。

国連人権理事会という名前を聞くと、読者の皆様がピン!とくるのは、「左翼団体」が「慰安婦問題」を利用して「性奴隷」をでっち上げ、国連の名のもとに「日本を糾弾」する「悪名高き組織」としてのイメージではないでしょうか。

これまで日本国内の左翼団体が国連人権理事会を経由して、世界にデマを発信してきたことについては、衆議院議員・杉田水脈氏の著書『慰安婦像を世界中に建てる日本人たち』(産経新聞出版)に詳しく書かれています。

しかし、「左翼団体発」→「国連経由」→「世界」という構図は、慰安婦問題だけではありません。今回、問題として取り上げるのは、環境保護団体として有名な「NGOグリーンピース・ジャパン」(以下GP)です。

GPは一昨年から昨年にかけて、国連人権理事会において「被曝に関して女性と子供の健康への権利が侵害されていること」「放射能汚染が続く地域への帰還圧力の改善の必要性」を、国連人権理事会の各国政府代表者に対して働きかけていました。

その主張は、

「原発事故で影響を受けた地域の許容放射線レベルを年間1ミリシーベルト以下に戻す」

「浪江町の復興拠点計画を撤回し、除染労働者保護の観点から、これらの地域での除染計画は停止」

「自主避難者に対する経済支援の提供」

……といった内容であり、科学的根拠に基づいての安全性という観点はもとより、福島県や福島県に住む県民の生活再建にはほとんど寄与しないものです。

しかし残念ながら、国連人権理事会「日本の普遍的・定期的レビュー(UPR)の作業部会」では「ドイツ、オーストリア、ポルトガル、メキシコの政府代表者」から、原発事故をめぐる日本政府の対応に人権侵害の是正勧告が起きています。さらに、是正勧告をもとに議員会館で集会が開かれ、立憲民主党の国会議員が、国会において政府に是正勧告内容の実施を迫る質疑が行われました。

多くの人々が知らぬ間に「放射能汚染が続く地域への帰還圧力」というGPの一方的な主張が、国連を経由して世界中にバラまかれています。また、国内では立憲民主党や共産党などの野党と日弁連の左翼弁護士を巻き込み、外務省に圧力をかけています。

まさに慰安婦問題と同様の構図です。

本稿では、GPによる福島県に関する国連人権理事会での行動を時系列でまとめました。読者の皆様には、原発事故以降の双葉郡の現状について判断していただきたいと思います。

実現不可能な主張

平成23年3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故により、当初は12の市町村が避難指示区域に設定されました。

避難指示区域は現在、「帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域」という3つの区域に分けられています。

①帰還困難区域

放射線の年間積算線量が50ミリシーベルトを超え、5年間を経過しても年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれのある地域。区域内はバリケードなど物理的な防護措置を実施している。

②居住制限区域

年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあって、引き続き避難の継続が求められる地域。住民の一時帰宅や、道路などの復旧のための立入りができるようになった。将来的に住民の方が帰還し、コミュニティを再建することを目指して、除染を計画的に実施するとともに、早期の復旧が不可欠な基盤施設の復旧を目指す区域。

③避難指示解除準備区域

年間積算線量が20ミリシーベルト以下になることが確実と確認された区域。復旧・復興のための支援策を迅速に実施し、住民の方が帰還できるための環境整備を目指す。区域内への立入りが柔軟に認められるようになって、住民の一時帰宅(宿泊は原則禁止)や病院・福祉施設、店舗等の一部の事業や営農が再開できるようになった。

原子力災害対策本部によって平成23年12月に示された避難指示の解除条件は、次の3点です。

①空間線量率で推定された年間積算線量が20ミリシーベルト以下になることが確実であること

②電気、ガス、上下水道、主要交通網、通信など日常生活に必須なインフラや医療・介護・郵便などの生活関連サービスが概ね復旧すること、子どもの生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗していること

③県、市町村、住民との十分な協議

本稿のテーマで取り上げるGPの主張は、「原発事故で影響を受けた地域の許容放射線レベルを年間1ミリシーベルト以下に戻す」という非常に難しい内容です。

復興を無視した暴論

政府の避難指示解除の基準としては20ミリシーベルトを目標として、長期的に1ミリシーベルトまで下げることを目標としています。放射線防護に関する国際基準として広く認められている考え方である年間20ミリシーベルト~100ミリシーベルトの範囲のうち、最も厳しい値の年間20ミリシーベルトを避難指示の基準として採用しました。

GPは避難区域の放射線量を「年間1ミリシーベルト」に設定した場合、避難指示解除地域では少なくとも「21世紀半ば」まで、まだ避難区域である地域では「22世紀」まで基準が達成されるのは難しい、とハンギョレ新聞の取材に答えています。

つまり、即座に年間1ミリシーベルトという数値を設定することは荒唐無稽な主張であり、双葉郡周辺の復旧・復興を無視した暴論だといえます。

こうした年間1ミリシーベルトを絶対視したGPの主張は、「浪江町の復興拠点計画を撤回」 「除染労働者保護の観点から、これらの地域での除染計画は停止」といった避難指示区域における除染計画すら否定しています。

科学的根拠に基づいての安全性という観点はもとより、福島県や福島県に住む県民の生活再建には必ずしも寄与しません。GPの身勝手な主張が、残念ながら国連人権理事会において「勧告」となり、政府はこれを受け入れてしまったのです。

平成29年10月12日、GPはスイス・ジュネーブで開かれた国連人権理事会の普遍的・定期的レビュー(URP)事前セッションに参加しました。

日本の人権状況に関するセッションで、“自主避難者の園田光子氏”が「被曝に関して女性と子供の健康への権利が侵害されていること」や「放射能汚染が続く地域への帰還圧力の改善の必要性」を、国連人権理事会の各国政府代表者に対して訴えています。

その後、11月14日に開かれた国連人権理事会による日本の普遍的・定期的レビュー(UPR)の作業部会で、東京電力福島第一原発事故をめぐる日本政府の対応に「ドイツ、オーストリア、ポルトガル、メキシコの政府代表者」が人権侵害の「是正勧告」を行いました。

4カ国による日本に対する是正勧告内容は次のとおりです。

”自主避難者”が訴え

「福島の高放射線地域からの自主避難者に対して、住宅、金銭その他の生活援助や被災者、特に事故当時、子供だった人への定期的な健康モニタリングなどの支援提供を継続すること」(オーストリア)

「男性及び女性の両方に対して、再定住に関する意思決定プロセスへの完全かつ平等な参加を確保するために、福島第一原発事故の全ての被災者に、国内避難民に関する指導原則を適用すること」(ポルトガル)

「特に許容放射線量を年間1ミリシーベルト以下に戻し、避難者及び住民への支援を継続することによって、福島地域に住んでいる人々、特に妊婦及び児童の最高水準の心身の健康に対する権利を尊重すること」(ドイツ)

「福島原発事故の被災者及び何世代もの核兵器被害者に対して、医療サービスへのアクセスを保証すること」(メキシコ)

年が明けて、平成30年1月23日、国連人権理事会の加盟4カ国が東京電力福島第一原発事故被害者の人権状況を是正するよう日本政府に勧告したことを受け、GPは勧告を受け入れることを求めた署名3,090筆を外務省に提出しています。

その時に、外務省人権人道課主席事務官が署名を受け取り、環境省、文部科学省、復興庁の担当者も同席しました。

翌月の2月19日、衆議院予算委員会にて、立憲民主党の山崎誠衆議院議員が国連人権理事会における勧告を取り上げ、政府に対して勧告内容の前向きな検討を要望する質問を行いました。

この時の山崎議員の質問内容は不明確であり、河野外務大臣から「おっしゃっている意味がよく分からない」と一蹴されています。

そして、3月5日に国連人権理事会の勧告に対する政府の見解が公表されました。ドイツ、オーストリア、ポルトガル、メキシコの国連加盟国が政府に勧告した内容について、これらの4つの勧告を受け入れました。

なお、各国から出された全217件の勧告に対して、政府は145件を受け入れ、34件を受け入れ拒否、その他は留意等としています。

政府が「4つの勧告」を受け入れたことに歓喜したGPは、さらに活動を活発化させていきます。

昨年3月8日、GPは参議院議員会館での「国連人権理事会 普遍的・定期的レビュー(UPR)福島原発事故関連の勧告の意義とは?」と題した集会を開催しました。

GPは国連の対日人権審査で出された原発事故関連の勧告について、政府が受け入れを表明したことを「歓迎」するとともに、「勧告を受け入れるからには、ただちに実行」するよう発言しています。

お馴染み「国連左翼」の面々

さらに、GPや参加した弁護士は「この決定は数万人の避難者や市民社会にとって1つの勝利であるとの認識を示した一方、政府が、被害者に必要な支援をしているなど実情と異なる説明をしていることを非難し、今後、表面的な対応をとるのではなく、すみやかに政策を転換すべきと訴えました」とGPのウェブサイトに記述されています。

◆GPのウェブサイトおよび動画から割り出した人物は次の通り

・松本徳子氏: 避難の協同センター代表世話人、福島県郡山市から神奈川県に自主避難

・伊藤和子氏: 弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長

・海渡雄一氏: 弁護士、日弁連UPRワーキング委員。福島みずほ参議院議員の夫。

・ヤン・ヴァンダ・プッタ: GPベルギー

・森松明希子氏: 東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream(サンドリ)代表、原発賠償関西訴訟原告団代表、原発被害者訴訟原告団全国連絡会共同代表、福島県郡山市から大阪府に自主避難

・岩渕友氏:共産党参議院議員、喜多方市生まれ

・山添拓氏:共産党参議院議員

その後、4月4日に、参議院東日本大震災復興特別委員会において、立憲民主党の参議院議員・川田龍平氏が国連人権理事会の4カ国による勧告をテーマに、政府に対して質問を行いました。

時系列化すると分かることは「展開の速さ」です。一昨年10月12日の国連人権理事会におけるGPのスピーチから昨年4月4日の立憲民主党・川田議員による国会質問まで、約半年で展開しています。

以上の時系列から、GPという組織がいかに国連人権理事会での活動に“手慣れているか”が分かります。さらに日本国内ではGPが日弁連、立憲民主党、共産党など弁護士団体や野党と“連帯”していることが判明してきました。

昨年7月4日には衆議院議員会館で勉強会を開き、外務省国際協力局緊急人道支援課から説明を受けています。

GPのブログには、国会でいちはやく国連人権理事会における勧告を取り上げた立憲民主党の山崎誠衆議院議員が冒頭にあいさつをしたと書かれています。

なお、当日の参加議員は以下のとおり(50音順)。

岩渕友参議院議員(共産党・全国比例)、金子恵美衆議院議員(無所属の会・福島第1区)、紙智子参議院議員(共産党・全国比例)、吉良よし子参議院議員(共産党・東京選挙区)、辰巳孝太郎参議院議員(共産党・大阪選挙区)、福島みずほ参議院議員(社民党・全国比例)、堀越啓仁衆議院議員(立憲民主・北関東ブロック比例)、森山浩行衆議院議員(立憲民主・大阪府第16区)、山崎誠衆議院議員(立憲民主・東北ブロック比例)、山添拓参議院議員(共産党・東京選挙区)、山本太郎参議院議員(自由党・東京選挙区)。

議論は平行線のまま

積極的に議員会館にて集会を開き、野党議員を動かしていくGPの狙いとは何か。そのキーワードが「国内避難民に関する指導原則」です。

立憲民主党の川田議員の質問主意書にも、国内避難民に関する指導原則を周知するように求める内容が書かれています。

「一、UPR作業部会におけるポルトガルからの『福島第一原発事故の全ての被災者に国内避難民に関する指導原則を適用すること』という勧告に従い、国内避難民に関する指導原則を、福島第一原発事故の避難者を受け入れている全国の自治体に対して周知すべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい」

この質問主意書に対する政府答弁書は次のとおりです。

「お尋ねの趣旨が明らかではないが、いずれにせよ、我が国はご指摘の『国内避難民に関する指導原則』の趣旨を尊重しており、政府として適切に対応して参りたい」

政府としては、すでに国内避難民に関する指導原則の趣旨を尊重しているが、川田議員、山崎誠議員、GPは周知されていないと議論は平行線のままです。

どのような人々が難民と呼ばれるか。これには条約による明確な定義が存在し、「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であること、または政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けられない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者」と定められています。

「難民条約」によって、難民が享受できる基本的な権利と、難民受け入れ国の義務も明確にされています。

一方、国内避難民(IDP)はどのような人々でしょうか? 国内避難民には、明確な法的定義が存在しません。状態を表す定義として、紛争や政治的な迫害、そして災害等によって『非自発的な移動を強いられている』人々で、『自国の中に居る人』が、国内避難民と呼ばれます。

もし、日本国内において「国内避難民」という状態を表すのであれば、原発事故によって帰還困難となった避難指示区域の住民に該当するかもしれません。

4月4日の参議院東日本大震災復興特別委員会における小糸正樹復興庁統括官の答弁においても、「避難されている方々が帰還される場合には、安心して生活できるように、医療、介護、買い物環境、教育などの生活環境の整備を支援しております」「そういった意味で、今後とも、ご指摘の指導原則の尊重をしながら、被災者の方々の声に耳を傾けながらできる限りの支援を行ってまいりたい」という答弁です。

それに対して、川田議員、山崎誠議員、GPは、自主避難者を含めて国内避難民に関する指導原則を適用・周知するように求めています。

自主避難者とは原発事故が発生した際、避難指示区域には含まれなかった区域の住民が放射性物質の飛散による健康被害などを懸念して、自発的に原発からより遠く離れた市あるいは他県へ移ったケースを示します。

自主避難者が避難した地域は避難指示区域ではなく、県庁所在地である福島市、県中心部の郡山市、浜通りから最も離れた会津若松市、私の住む須賀川市等、そこには多くの福島県民が生活をしています。

「国際的な原則」とは?

自主避難者に対しては、福島県による住宅の無償提供が続けられてきましたが、2017年3月末で終了しています。7月4日の衆議院議員会館における集会にて、国連人権理事会においてスピーチした自主避難者の森松明希子氏は以下のように発言しています。

「とくに避難指示区域外の避難者の実情が把握できておらず、そのため効果的な支援ができていない。国際的な原則が守られておらず、差別も起きている。また、帰還する人への支援が厚く、帰還しない人への支援が打ち切られている。避難を続けたい人が続けられる施策をお願いしたい」

森松氏は兵庫県に生まれ、東日本大震災時は郡山市で被災しています。森松氏が自主避難した郡山市では、いまでも33万人以上の住民が日常生活を送っています。はたして、現在も避難する必要があるのでしょうか。

震災当初は日々の原発事故に関する緊迫したニュース、政府の情報発信の不手際、メディア発の放射能デマなど、不安のなかで自主的に避難したことは責められることではなく、当時は仕方がなかったと思います。

しかし、震災と原発事故から8年が経過し、県内の多くの地域で除染が進んだ現在において、自主避難者に「避難を継続していく経済的支援」が必要とは思いません。

福島県は現在も情報提供を主とした、各都道府県への職員派遣や県外復興支援員の設置といった避難者支援事業を実施しています。こうした取り組みも、はたしていつまで続けていくべきか総括する時期にきています。

政府はなぜ反論しないのか

しかし、野党、日弁連、GPは、自主避難者に対する住宅の無償提供再開を求めています。住宅の無償提供再開の根拠として、「国内避難民に関する指導原則」を自主避難者に対して適用・周知させようとしています。

7月4日の衆議院議員会館内での集会において、外務省国際協力局緊急人道支援課の担当者は、国内避難民に関する指導原則の「日本語訳の翻訳作業」を始めたと説明しています。

国内避難民に関する指導原則に関する日本政府としての日本語公式翻訳はありません。野党・日弁連・GPは、日本語の公式翻訳ができることで、政府が「原則」を周知させ、行政が「原則」に則った避難者対策を行い、政府が「原則」を法律として取り入れることを目標としています。

ここまで、GPによる一昨年から今年にかけての一連の動向を述べてきました。最後に、政府と福島県の対応について述べていきます。

国連人権理事会による「ドイツ、オーストリア、ポルトガル、メキシコの政府代表者」からの人権侵害の「是正勧告」に対して、政府はこの勧告を受け入れています。

各国から出された全217件の勧告に対して、政府は145件を受け入れ、34件を受け入れ拒否、その他は留意等としています。この145件のなかの4件が「原発事故の避難」に関する勧告でした。

国連人権理事会の勧告は、たとえ政府が受け入れたとしても、すでに実施済みと回答するケースが多く、政府が新たな政策として実施しなければ効力を持ちません。

しかし、政府が受け入れを表明したことで、その実現を目指すために野党第一党の立憲民主党を筆頭に、国会において政府に対して勧告の実現を要求することになりました。

国連人権理事会における各国の委員は、福島県内の状況に対してほとんど知識はなく、GPの主張を鵜みにしています。やはり、政府としては4つの勧告に対して反論し、受け入れ拒否すべきであったと思います。その場で反論せず、受け入れてしまえば、相手はどんどんエスカレートしていきます。

また、国連人権理事会による「是正勧告」(recommendation)について、AJCN代表の山岡鉄秀氏は著書『日本よ、もう謝るな!』(小社刊)のなかで、recommendationは「提案・提言」であって、「勧告」と翻訳することについて適切ではないと指摘しています。
「勧告」と訳すことで、何らかの強制力があるかのように受け止めがちですが、実際には国連人権理事会による「提案・提言」であり、無視する国もたくさんあります。

「参考にはする。もし的を射た指摘があれば対応する」。これが政府の基本スタンスであるべきだと山岡氏が指摘するとおり、日本が右往左往する必要はないのです。

そのうえで、事実に反した内容や国内の実状に合わない内容については、政府はしっかり反論すべきです。 残念ながら今回のケースでは、政府による反論はありませんでした。

「4つの勧告」について政府が明確な反論をせずに受け入れたことで、さらに状況は悪化していきます。昨年10月25日の国連総会にて、国連人権理事会の特別報告者バスクト・トゥンジャク氏は国連本部で会見し、原子力発電所の事故で避難した子どもや出産年齢の女性の帰還について「問題視している」と述べています。さらに被曝線量が年間1ミリシーベルト以下という基準が適切で、20ミリシーベルト以下で避難指示を解除している日本政府の対応を批判しました。

この特別報告者の主張は「4つの勧告」とまったく同じ内容であり、到底受け入れられる内容ではありません。政府は会見後に開かれた会合で、20ミリシーベルト以下という基準値は国際放射線防護委員会による勧告の範囲内だとし、報告者の批判は「風評被害に苦しむ福島の人々の状況悪化につながりかねない」と反論しています。

さらに、11月6日には外務省の公式ウェブサイトに「国連特別報告者2名からの情報提供要請に対する回答(福島第一原発事故関連)」を掲載し、特別報告者バスクト・トゥンジャク氏とヒメネス・ダマリー氏に対して、政府として反論したことが書かれています。

特別報告者に対する政府の毅然たる反論については評価しますが、やはり平成29年11月の国連人権理事会における4つの勧告に対して、反論せず受け入れてしまったことは、わが国にとって大きな痛手となりました。

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不幸の連鎖は続く

最後に、福島県内では今回の国連人権理事会における「提案・提言」(recommendation)に、どのように反応したのか述べておきます。

平成29年11月20日に、福島県の内堀雅雄知事は定例の記者会見において、国連人権理事会作業部会の勧告について発言しています。

記者からの質問に対して、内堀知事はこれまで福島県が取り組んできた復興政策について発言しています。福島県庁のウェブサイトを検索しましたが、国連人権理事会について触れた内容はこの1件のみでした。

また、福島県議会の議事録を検索しましたが、国連人権理事会については議会において取り上げていません。この国連人権理事会における「いわゆる是正勧告」については、私が調査したところ、福島県議会議員、福島県庁職員で知っていた人は誰もいません。

当然のことながら、今回のGP発→国連人権理事会経由→永田町の一連の動きをほとんどの福島県民は知らないと断言できます。

ほとんどの福島県民、福島県議会、福島県庁が全く知らない間に、一連の動きが行われていました。その間に、一部の自主避難者の主張が国連を経由して世界中に拡散されていることは、まさに福島県民同士が不幸の連鎖を作り上げているとしか言いようがありません。

自主避難者の家庭では、夫と両親が福島県内に残り、母子が県外に自主避難した結果、離婚につながった事例も多くみられます。原発事故以降、科学よりもイデオロギーを優先する活動家によって、福島県民の分断が煽られてきました。

また、避難先における高齢者の健康影響も重大な問題です。相馬中央病院の坪倉正治氏によれば、「避難は放射線被曝を低減するための最も有効な手段である一方で、震災数年間を通して最も大きな健康影響を持ちうる。中・長期的には、糖尿病に代表される慢性疾患・生活習慣病、運動機能の悪化は最重要課題の1つである。特に糖尿病の悪化による影響は、放射線被曝の数十倍の健康影響を及ぼしうる」と指摘しています。

無責任な活動家による避難継続の扇動が、すでに実害を引き起こしていると言っても過言ではありません。

「第二の慰安婦問題」に

震災と原発事故から、もうすぐ8年目を迎えます。いまだに続く福島県に対する放射線を巡る風評被害は、国内だけではなく、国外に拡散・定着しています。

これまでは「正しい情報を発信すれば必ず分かってくれる」という性善説に基づき、国と福島県は風評被害対策に取り組んできました。しかし、福島県の復興を認めない異常なイデオロギーに染まった人物や団体には、「正しい情報」は通用しません。むしろ、悪意を持って福島県を貶めるデマや差別的な情報を発信する人たちもいます。

こうした「福島の政治利用」は、8年前の原発事故直後から何ら変わっていません。私たちの故郷は、いまでも左翼団体に政治利用され続けています。

これからの風評被害対策では、正しい情報を発信するだけではなく、国と県を挙げてしっかりとした反論をすべきです。

この問題を放置すると、原発事故と福島を巡る問題が「第二の慰安婦問題」と同じ構造になってしまいます。これは福島県と福島県民だけの問題ではなく、日本と日本国民全体の問題なのです。


(『Hanada』2019年4月号より転載)

著者略歴

渡辺康平

https://hanada-plus.jp/articles/186

須賀川市議会議員。1985年、福島県須賀川市生まれ。高校卒業後、航空自衛隊に入隊。2012年、航空自衛隊退官後、経済評論家秘書、国会議員秘書、福島県議会議員秘書を経て、2015年8月、須賀川市議会議員に初当選。

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