「表現の不自由展」はヘイトそのものだ|門田隆将

「表現の不自由展」はヘイトそのものだ|門田隆将

「表現の不自由展」初の実体験レポート!月刊『Hanada』2019年10月号(完売御礼!)に掲載され、大反響を呼んだ門田隆将氏のルポを特別に全文公開!10月8日の午後、「表現の不自由展・その後」が再開されましたが、門田隆将氏のルポは8月3日、つまりは中止になる前日の模様を描いた希少な体験記です。


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不快極まる作品群

私は、少女像の前に展示されていた作品にも首を傾げた。「時代の肖像―絶滅危惧種 idiot JAPONICA 円墳―」と題されたその作品はテントのようなかまくら形の外壁の天頂部に出征兵士に寄せ書きした日の丸を貼りつけ、まわりには憲法九条を守れという新聞記事や靖国神社参拝の批判記事、あるいは安倍政権非難の言葉などをベタベタと貼りつけ、底部には米国の星条旗を敷いた作品だった。

idiot とは「愚かな」という意味であり、JAPONICAは「日本趣味」とでも訳すべきなのか。いずれにしても「絶滅危惧種」 「円墳」という言葉からも、絶滅危惧種たる「愚かな」日本人、あるいは日本趣味の人々の「お墓」を表すものなのだろう。日の丸の寄せ書きを頂点に貼った上にこのタイトルなので、少なくとも戦死した先人たちへの侮蔑を含む作品のように私には感じられた。

どの作品も「反日」という統一テーマで括られた展示だった。会場の壁には「表現の不自由をめぐる年表」も掲げられていたが、「表現の不自由」といえば、チャタレー事件に始まり、四畳半襖の下張事件、日活ロマンポルノ事件をはじめ、ポルノやヘアをめぐって当局との激しい闘いの歴史が日本には存在する。

私は、これらが「なぜ無視されているのか」を考えた。つまり、展示はあくまで政治的な主張が目的なのであって、純粋な「表現の自由」をめぐる訴えなどは考慮にないのではないか、と感じたのである。

あいちトリエンナーレは、日本人の税金が10億円も投入され、公の施設で開かれる「公共のイベント」だ。そんな場所で、わざわざ他国が主張する「虚偽の歴史」のアピールをする意味は何だろうか。それを許す責任者、つまり大村秀章・愛知県知事は余程の「愚か者」か、あるいはその韓国の主張に確固として「同調する人物」のどちらかなのだろう。

私は、こんな人物が愛知県知事という重責を担っていることに疑問を持つ1人だが、首長を選ぶのは、その地域の人たちの役割なので、私などがとやかく言う話ではない。

私は、試しに韓国や中国へ行って同じことをやってみたらどうだろうか、と想像した。たとえば韓国人の税金が投入された芸術祭で、何代か前の大統領の肖像をバーナーで焼き、その燃えかすを思いっきり踏みつけてみる。そして、その大統領の顔を損壊し、剥落させた銅版画を展示してみる。韓国人はどんな反応を示すだろうか。

また中国へ行って、中国共産党の公金が支出された芸術祭で、同じように毛沢東の肖像をバーナーで燃やしてみる……。どんな事態になるかは容易に想像がつく。作者は、おそらく表現の自由というものは、決して「無制限」なものではなく、一定の「節度」と「常識」というものが必要であることに気づかされるのではないか。イスラム社会で仮にこれをやったら、おそらく命が断たれるだろう。逆に私は「日本はいかに幸せか」をこの展示で感じることができた。

しかし、日本人にとって国民統合の象徴である昭和天皇がここまで貶められるのはどうだろうかと思わざるを得ない。昭和天皇、そして昭和天皇のご家族にとどまらず、自分たち日本人そのものの「心」と「尊厳」が踏みにじられる思いがするのではないだろうか。つまり、これらは、間違いなく日本人全体への憎悪(ヘイト)を表現した作品なのである。

もし、これを「芸術だ」と言い張る人には、本物のアーティストたちが怒るのではないか、と私は思った。「あなたは芸術家ではない。偏った思想を持った、ただの政治活動家だよ」と。

それは昭和天皇を憎悪しない普通の観覧者にとっては、ただ「不快」というほかない作品群だった。少なくとも、多くの日本人の心を踏みにじるこんなものが「アート」であるはずはない。作者が日本人に対するヘイトをぶつけただけの展示物だと私には思えた

支離滅裂の大村知事

私が会場を去って間もなくの午後5時。同センターで緊急記者会見した大村秀章・愛知県知事は、

「テロや脅迫ともとれる抗議があり、安全な運営が危ぶまれる状況だ」

と語り、突如、展示中止を発表した。芸術祭事務局に「美術館にガソリン携行缶を持って行く」との脅迫のファックスがあり、安全が保てないことを理由に「中止を決めた」という。開幕からわずか3日。信じがたい展開だった。

それは「あってはならないこと」である。「表現の自由」を標榜して展示をおこなっているなら、どんなことがあっても脅迫や暴力に「負けてはならない」からだ。まして大村氏は愛知県知事だ。愛知県警を大動員してでも、「暴力には決して屈しない」姿勢を毅然と示さなければならない立場である。

一方で私には「ああ、逃げたな」という思いがこみ上げた。あの展示物を見れば、常識のある大人ならこれに税金を投じることの理不尽さを感じ、非難がますます大きくなることはわかる。それを察知した大村知事は、テロの危険性をことさら強調し、自分たちを「被害者の立場」に置いた上で“遁走”したのだろう。

その証拠に4日後、実際にファックスを送った当の脅迫犯が逮捕されても大村知事は展示再開を拒否した。

芸術祭の実行委員長代理である名古屋市の河村たかし市長はこの展示を知らず、慌てて観覧した後、

「少女像の設置は韓国側の主張を認めたことを意味する。日本の主張とは明らかに違う。やめればすむという問題ではない」

と大村知事と激しく対立した。これに対して大村知事は、

「(河村氏の)発言は憲法違反の疑いが極めて濃厚。憲法21条には、“集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。検閲は、これをしてはならない”と書いてある。公権力を持っているからこそ、表現の自由は保障しなければならない。公権力を行使される方が、この内容はいい、悪いと言うのは、憲法21条のいう検閲と取られても仕方がない。そのことは自覚されたほうがいい」

と反撃。だが、憲法12条には、「表現の自由」などの憲法上の権利は濫用されてはならないとして、〈常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ〉と記されている。表現の自由をあたかも「無制限」であるかのように思い込んでいる大村知事の認識の甘さは明白だった。

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