難解で不明な用語にもかかわらず、ケーブルテレビ局であるJTBCが2016年10月24、25、26日、「タブレットPC」について報道後、マスコミは「国政壟断」という用語を広く使い始めた。朴槿恵大統領ではなく、チェ・スンシルが国家業務に介入し、代わりに国家を運営していたという疑いを、ひと言で説明するためである。
10月26日には、JTBCの報道部門社長兼アンカーである孫石熙(ソン・ソッキ)が直接ニュースに出演し、「タブレットPC」に対する根拠のない報道を続けた。(0:44) 当時JTBCは、タブレットPC画面を公開し、チェ・スンシル氏が朴大統領の演説文を編集し、政府公文書を検討していると報道した。 これに続いて、他のメディアが先を争って引用報道し、「タブレットPC」にまつわる報道が韓国国内に瞬時にあふれ、全国民に広がりを見せた。
ソン・ソッキはタブレットPCが国政壟断のスモーキングガン(動かぬ証拠)だと主張した。 JTBCニュースルーム 2016年 12月 8日 報道画面。
2016年10月19日と26日、JTBCはチェ氏が普段タブレットPCを持ち歩き、それを使って、朴大統領の演説文を好んで修正したと主張することで、チェ氏が朴大統領の演説文まで編集をおこなっているため、チェ氏が代わりに国を運営していることは明らかであるという報道をおこなった。
しかし、このような結論に至るまでの論理は非常に飛躍している。なぜなら、大統領は多様な人々に助言を仰ぐことができ、また助言を得るからといって、その助言者が公式的であれ非公式的であれ、国を運営するとはいえないからである。さらに、チェ氏がタブレットPCで朴大統領の演説文を編集したという事実に対する証拠はもとより、タブレットPCがチェ氏の所有だという証拠すらない。
しかし、JTBCの主張は、朴大統領が国家を運営していないと―国政壟断していると―国民に信じさせた。タブレットPCに対するJTBCの根拠のない報道は、国民に恥と憤りを与え、大規模なろうそくデモを導き出した。 国会と検察、憲法裁判所もこうしたタブレットPC報道を、国政壟断の「根拠」として言及した。 若者の間で人気の放送局であるJTBCは、以前にもセウォル号沈没とTHAAD配備問題について虚偽の内容を放送したが、当時も一部国民のデモが後を絶たなかった。
当時のガーディアン-AP(Guardian - Associated Press)の記事。この記事から引用された。左から4番目の紙にはこう書いてある。「恥ずかしくてたまらない。朴槿恵は消えろ。チェ・スンシルを拘束しろ。―憤った城南市民」
タブレットPCに対するJTBCの報道は、十分に検証されていない。 韓国政府の科捜研フォレンジック報告書によると、JTBCがタブレットPCを入手後、当該機器に多数のファイルが生成、修正、削除された記録が確認された。 また科捜研の報告書によると、タブレットPCユーザーが数人と推定されたため、タブレットPCの所有者を決められないと結論付けた。
しかし、科捜研のフォレンジック報告書が出来上がったとき、すでに時は遅すぎた。 報告書は、朴大統領が弾劾されて1年後に完成したためである。少数の人たちは、タブレットPCに対するJTBCと孫石熙(ソン・ソッキ)の主張がもつ妥当性を、持続的に問題提起したが、最も強力に主張した人々は投獄された。―言論家のビョン·ヒジェと彼の同僚であるファン·ウィウォン(彼らはメディアウォッチという小規模マスコミの記者である)は収監された。
科捜研のフォレンジック報告書が公開されてからも、ビョン·ヒジェを起訴した検事は、引き続きタブレットPCがチェ・スンシル氏所有のものだと主張している。 判事らは、タブレットの精密検証を求めるビョン氏の要請を拒否し続けているが、これは被告人の防御権を深刻に侵害するものだ。