「その後、被害者の男性が警察に行って事故のことを話したんですが、警察は『捜査しない』と明言しました。事情を聞いていた僕が県議会議員に繋いで、県警に『もうちょっと捜査するように』と言ってもらいました」(奥富議員)
その後、警察が捜査したところ、事故車の所有者が宇都宮にいることが判明した。
「『宇都宮の人と示談をしてくれ』とそこで幕引きです。修繕費は払ってもらえず、被害者が自ら修繕費を払って直しました」(奥富議員)
ひき逃げや死亡事故が起こったとき、警察はさすがに逮捕する。しかし人身や物損ぐらいでは警察は捜査すらしない。この門扉破壊事故はその典型例だ。奥富議員は言う。
「無免許、無保険、他人名義の車のケースの場合、書類をそろえたり、名義が誰かを調べたりするのがいろいろ大変だからです。車をぶつけられたけど、相手は無保険だったので何の賠償もされなかったといった今回に似たケース、たくさん聞いています。クルド人は支払能力がないので、結局は被害者が自腹を切るしかないんです」
物損は被保険者の保険で直すことになる。要はやられ損なのだ。
「排外主義者」としてのレッテル
メディアはクルド人の悲惨な境遇ばかりしか扱わない。その一方、地元住民による被害の声はほとんど紹介してこなかった。それはなぜか。
「日本人でも、この近辺に住んでる人は皆さん『外国人に困ってる』と言いますよ。ただ実際に声に出すと『言い過ぎなんじゃないか』『周りから叩かれるよ』と」(奥富議員)
「排外主義者」としてのレッテルを張られることを恐れ、声をあげることすらできない人が大半なのだ。それでも奥富議員は数年前、声を上げた。案の定、影響はあった。
「関連は不明ですが、4月末の川口市議会議員選挙は前回(2019年)に比べ700票、票数を落としました。また、5月初めに石井孝明さんの記事で紹介された後、『ヘイト議員』だとか、『レイシスト』だとか日本語で罵倒のメールがたくさん来ました」
それ以外に彼は、知人であるクルド人から意味深な電話を受けている。
「『取材になぜ協力した? 身の回り気をつけた方がいいよ』と言われました。そして後日、駐車場の白線に小さな字で『死』と書いてあるのを母が見つけて教えてくれました。僕は駅でチラシ配っているんですけど、その日の朝は、防弾チョッキとヘルメットをかぶって配りました。さすがに心配だから」